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2009-04-25(Sat)

二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(後編)

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(後編)
           この話は前編中編からのつづきになります。







(9)アルコールによる認識力低下

酔いが回ってきたのだろう。眞一郎は真っ赤な顔をしている。酒蔵の息子にしては少々弱めという気がする。まだ3杯位しか飲んでない筈なのに。正直飲み比べとか出来るかもと期待してたのだが読みが外れたようだ。そんなことを考えながら俺はコップの中の酒を飲み干した。
「三代吉はすごいね」
愛ちゃんは空のコップを受け取りつつ素直に俺への感心を示した。愛ちゃんが下戸なのはちょっと残念だったが、湯浅さんみたいに飲むだけ飲んですぐに寝てしまうよりはいいだろう。その愛ちゃんは酒瓶をほぼ垂直に立てて最後の一滴までコップに注ぎ込んだ。そろそろ潮時かも知れない。愛ちゃんから最後の酒を渡された俺がそう感じていると、眞一郎が顔を仰ぐ手をとめて立ち上がった。
「ちょっと夜風に当たってくるわ」
「あ、俺も付き合うわ」
俺はそういうと酒を一気に飲み干した。
「お前は全然酔ってないように見えるんだが」
「ちょっと散歩もしたいしな」
「なら、私もつきあうよ」
愛ちゃんも俺たちに同行する意を示した。俺たちは立ち上がると部屋を後にしようとする。その時愛ちゃんが後ろを振り向いて尋ねた。
「比呂美ちゃんはどうするの?」
眞一郎は少し考えた後で答えを出す。
「放っておこう。寝かせておいたほうがいいと思うから」
まあ旅館の中だし危ないような目にあうこともないだろう。そして俺たちは旅館の外へと繰り出すことにする。
「何か飲みたいな。コンビニとか近くあるか?」
「どうだろ?それより秘宝館とかやってないかな」
「お前な…」
「秘宝館って何?」
そんな無駄話をしながら俺は袖の下をまさぐる。だがそこには期待したものは存在しなかった。
「財布ないわ。あったほうがいいよな。取ってくるから先いっててくれよ」
「おう」
「早く来てね」
眞一郎も愛ちゃんもちゃんと財布を持ってきているようだ。用意がいいというかなんというか。俺は急いで部屋まで戻ることにする。

部屋では相変わらず湯浅さんが横になって寝息を立てていた。俺は彼女を起こさないように忍び足で進むと半腰で自分の荷物を漁る。そして俺は財布を見つけると同時に背後に人の気配を感じた。振り返ろうと思うや否や俺の尻に何かが押し付けられる。
「な!?」
後ろを見て愕然とする。そこには俺の尻に頬擦りをする湯浅さんの姿があった。
「しんひちろうくん…ようやくふらりっきりになれらわね」
俺は思わずしゃがんだままダッシュで後ずさってしまう。どうやら彼女は俺を眞一郎と間違えているようだ。
「ち、ちが…」
四つん這いになっている彼女は胸元から深い谷間を覗かせている。生唾を飲み込む俺はまともに声を出すこともできない。湯浅さんは四つん這いのままで俺に歩み寄ってきた。俺も後ずさろうとするがすでに壁際で後ろに下がることもできない。
「ろうしらの?あ、そうゆうプレイ?いいわ、おにぇいさんがおしえれあれる」
湯浅さんはくすくすと笑いながら俺に這いよってくる。俺は動くことも出来ずに彼女の接近を許してしまう。甘い吐息と石鹸の匂い。そして湯浅さんは俺の浴衣を肌蹴させると俺の胸から腹へと右手を滑らせていき、そしてトランクスを下にずらす。するとすでに元気一杯になっている俺の息子が姿をさらけ出した。
「あれ、ひつもよりおおきいよ?」
そういうと彼女は俺の竿をしごいた。うまい。うますぎる。男のツボの何たるかをちゃんと理解している。これが経験者というものなのか。絶妙なカリへの刺激が俺に更なる興奮を呼び起こす。そして彼女は手を止めると俺のモノをじっと見つめたかと思うとやがてそれに顔を近づける。
「ちょ、ちょっ!」
制止を求める俺の声が耳に入らないのだろうか、彼女は口を開くと俺のモノを咥え込んでしまう。そして舌を絡めつつも頭を動かしだす。すごい。すごすぎる。先ほどの手コキもうまかったが、今度の口淫はそれよりもはるかにすごい。カリが唇の刺激を通り過ぎたかと思うと今度は舌が刺激してくる。こんなすごいのを眞一郎はしょっちゅう味わっているのか。徐々に限界が近づいてくる俺の竿。すると彼女の舌は今度はカリではなく先端へとターゲットを変えてくる。先っちょの割れ目を舌先でなぞり上げてきた。そのあまりの快感に俺は耐えることが出来なくなった。そしてついに爆発。勢い良く飛び出していく白液の脈動を彼女は口の中に受け止めていく。いや喉が動いているのが見える。それはつまり…まるで頭の中が真っ白になったようだ。放心状態の俺は今一考えが纏らない。俺は今何をしたんだ?どうすればいいんだ?すると湯浅さんは俺の陰茎から口を離すとゆっくりと立ち上がった。俺は呆然としながら彼女を見上げた。
「味がちらーう!!」
「へ?」
今の俺には彼女が何を言っているのか理解できない。
「何者らー!しょうらいをあらわせー!」
そういって歩み寄ろうと大股で足を踏み出す彼女だったが、あまりに力を入れすぎたのかちょうどそこにあった座布団に足を滑らせてすっころんでしまった。
「きゃ!」
そして動かなくなった彼女。俺はトランクスを上げると立ち上がって彼女を覗きこんだ。どうやら彼女はまた眠ってしまったようだ。すやすやと寝息をたてている。俺は深いため息をつくと財布を拾って逃げるようにその場を後にした。何もなかった。何もなかったんだと自分に言い聞かせながら。


(10)アセトアルデヒド分解の未完了

「ふぁーわぁ」
我ながら大げさな欠伸だと思いながらぼんやりとした目で辺りを見渡すとそこは見慣れぬ部屋だった。
眞一郎君と野伏君らしき話し声が襖越しに聞こえてくる。私は目をこすって意識を目覚めさせようと試みた。そう、ここは旅館の中だ。そして今は温泉旅行の最中。結局、昨日は愛ちゃんと野伏君は最後までたどり着けたのだろうか?あれ、そういえば昨日は夕食の後ってどうなったんだっけ?私は夕べのことを思い出そうとしてみる。だがその時頭をじわじわ締め付けてくるような痛みを感じた。
「いたたた」
「どうしたの?二日酔い?」
愛ちゃんがタオルを畳む手を止め尋ねてくる。気がつかなかったが愛ちゃんは私のすぐ近くにいたのだ。
「なんか頭が痛くて…」
「それが二日酔いなのよ。でも流石に薬はもって来てないからなあ。お酒飲むって知ってたら事前に用意しておいたのに…」
愛ちゃんは心配そうな顔で私を覗き込んでくる。私は心配しないでと愛ちゃんに返そうとするもまた頭に痛みを感じる。
「いたた」
私が頭を抱えるように抑えていると眞一郎君が襖越しに呼びかけてきた。
「比呂美?起きたのか?」
「頭痛い…」
「比呂美ちゃん二日酔いみたいよ。もうすぐ朝食だから、そしたら魚介類を優先的に食べればいいよ」
愛ちゃんは眞一郎への状況説明と共になにやらアドバイスらしきものを私に提示してくる。
「魚介類で治るのか?」
「うん、結構きくらしいよ?父さんはそう言ってた」
眞一郎君の確認に肯定を返す愛ちゃん。
「うん、わかった」
私は愛ちゃんの助言に従うことにする。
「無理はするなよ」
「大丈夫」
眞一郎君に心配ないと返しつつ布団を出て自分の鞄を開く。
「あれ?」
コンタクトレンズがケースの中に入ってない。ふいに私の脳裏に昨日の卓球の後の出来事が蘇る。ずれたコンタクトを直そうとして落としてしまい床を探る私に気づいた愛ちゃんが心配そうに近づいてきて…パリン。レンズは愛ちゃんのスリッパの下で昇天してしまったのだ。すっかり忘れていた。これもきっと二日酔いの頭痛のせいだろう。私は眼鏡のケースを開いて中身の存在を確かめる。こちらは大丈夫。安心すると私は眼鏡ケースをそのまま鞄の中に戻す。眼鏡を掛けた顔は眞一郎君にしか見せたくはないのだ。少し視界のピントが悪くなるがノートをとる訳でもないからかまわないだろう。
「ん?」
眼鏡をしまった私は何か引っかかりを覚える。だが何に対してなのかわからない。そんなふうに悩んでいる間に愛ちゃんは私の布団を畳んでいく。そして隣からまた眞一郎君の声が聞こえた。
「おーい、朝食来たぞ」
どうやら隣の部屋に4人分の朝食が届いたようだ。とりあえず考えるのは後にしてもいいだろう。今は先に朝食で魚介類を食べることが優先だ。頭痛であまり食欲はわかないのだが。

顔を洗い浴衣から私服に着替えて襖を開き朝食の席に着く。すでに他の皆は席について私を待っていたようだ。
「ごめんね。遅くなって」
「よし、じゃ食べようか」
「いただきます」
そして一同は一斉に箸を動かし始める。眞一郎君はガツガツと勢いよく朝食をかきこんでいく。男の子は食べる量が多いから私が残すことになったら眞一郎君に食べてもらおう。そう思いながら魚介類を口にする私。やはり余り食欲が湧かない。躊躇いながら箸を動かす私は同じように躊躇っている野伏君に気がつく。彼も二日酔いなのだろうか?あまり食が進んでいないようだ。昨日の昼にかなりの大食いをみせていた彼らしくない。私が見詰めているのに気がついたのか野伏君はは私から視線を逸らす。何か不自然だ。私はまた何か引っ掛かりを感じる。だがそれが何に対してなのかはやはりわからない。まあ考え事は頭痛が和らいでからにしてもいいだろう。私はまた箸を動かしだす。
「美味しいね」
「そうだな」
愛ちゃんの朝食に対する賛辞に同意を見せる眞一郎君。だが野伏君は相変わらず黙ったまま黙々と食事を続けている。
「比呂美もそう思うだろ?」
眞一郎君が私に同意を求めてくる。だが頭痛のせいだろうか余り美味しく感じられない。
「二日酔いのせいで味わっている余裕ない…」
「…そうか。残念だな。早く治るといいな」
眞一郎君は私を優しく見つめてくる。彼に心配かけないためにも早く治さないと。
「三代吉はどうだ?旨いか?」
野伏君は眞一郎君の急な振りにも気づかずに食事を続けている。
「三代吉?」
そして我に返ったのだろうか野伏君は慌てた様に返答する。
「あ、そ、そうだな。旨いよ。この旅館は一味違うって評判なんだよ。そうそう味がちがう…」
そこまで言って固まった野伏君。そして私を一瞬だけ見つめるとすぐに目を逸らした。どうしたのだろうか。何かあったのだろうか。
(味が違う?)
野伏君の言葉が私の頭の中でリフレインする。そして彼の挙動不審。何かが結びつきそうだ。私は昨日の出来事を思い出そうと試みる。夕食でお酒を飲んで酔っ払って…それからどうしたっけ?そうそう、そういえばいつの間にか眞一郎君と二人っきりになってて…口でしてあげて、でも味が違って…
「あああああ!!!!」
思わず立ち上がって大声で叫んでしまう。
「どうした比呂美?」
「気分悪いの?」
全てが一気に繋がってしまった。私はきっと眞一郎君と間違えて野伏君のモノを…野伏君は私から目を背けたまま。心なしか体が震えているようだ。間違いない。私は野伏君の放ったものを…
「うぇっ」
唐突に猛烈な吐き気をもよおした私は縁側の所にある洗面台へと駆け寄る。
「うげぇぇぇぇ」
そして食べたものを全て洗面台に戻してしまう。
「どうした!」
「比呂美ちゃん!」
洗面台に寄りかかってげほげほとむせる私に慌てて駆け寄ってくる二人。私は恐る恐る二人を見つめる。
「気分悪いのか?」
「お医者さん呼ぼうか?」
口々に私への心配を見せる眞一郎君と愛ちゃん。私はとんでもないことをしてしまった。これは眞一郎君への裏切りでもあり、愛ちゃんと野伏君に対しても裏切りだ。私は取り返しのつかない過ちを犯してしまったのだ。いつの間にか滲んでいた涙が頬を流れていく。
「比呂美…」
「うぁああああぁん」
私はついに抑えきれなくなって大声で泣き始めてしまう。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
眞一郎君は私の手を握り締めてきた。
「何があったんだ?」
「ごめんなさい眞一郎君。ごめんなさい愛ちゃん。ごめんなさい野伏君…私、なんてことを…」
私の涙は止め処なく溢れて来る。私は涙とともに贖罪の言葉を吐き出す事しか出来なかった。


(11)涙腺からの分泌液

大泣きしながらごめんなさいを繰り返すだけの比呂美ちゃん。何があったというのだろう?彼女のこんな姿は見たことがない。小学校5年の春、私より早く初潮を迎えた比呂美ちゃんが父親に特定の男子と私的に関わる事を禁じられたことについて相談しに私の元に来た時でも、泣きそうな顔をしてはいたものの結局最後まで泣くことはなかった。私はずっと彼女の涙を見たことが無かったのだ。初めて見る彼女の泣き顔に私は酷く戸惑ってしまっている。それに一向に説明がないので正直要領を得ない。そんな中、三代吉は躊躇いながら口を開いた。
「あ、あのさ…言い難いんだけど」
その後、三代吉が顔を背けながら続けた話を聞いて驚愕する私たち。彼が言うには酔っ払った比呂美ちゃんに眞一郎と勘違いされて口でされてしまったのだと。
「そ、そ、それってフェ、フェ…」
思わずどもってしまう。多分私の顔は真っ赤になっているだろう。私は慌てて眞一郎の顔を見つめる。彼は押し黙ったまま複雑な表情を見せていた。
「御免…俺がちゃんと拒絶出来てれば…」
顔を背けたままの三代吉の謝罪は皆に向かってのものだろう。私には容易に三代吉の苦い表情が想像できた。そんな中眞一郎は俯いていた比呂美ちゃんの顔を右手で持ち上げると顔を寄せて口付けをした。あれ?比呂美ちゃんは確かついさっき嘔吐を…そんなことを考えていると眞一郎は唇を離しじっと彼女を見つめると左手で涙を拭った。
「大丈夫。もう気にしてない。もう誰も気にしてないから。そうだろ?」
振り向きつつ私に同意を求めてくる眞一郎。一瞬の躊躇の後、私は慌ててそれを肯定する。
「そ、そうだよ。気にしてないよ。わ、私だって眞一郎のファーストキス奪っちゃったんだから、お互い様よ」
正直言うと気にしてないわけではない。キスとフェラチオでは全然違うと思うし。でも今は眞一郎に従うべきだと思ったのだ。
「三代吉はどうだ?」
眞一郎の質問に三代吉もようやく振り向きながら答える。
「いや、その、俺も気にしてないって言うか。正直気持ちよかったし…」
思わず三代吉を睨んでしまう私。三代吉はまた慌てて顔を背けた。
「ほら誰ももう気にしてないぞ」
眞一郎はもう一度比呂美ちゃんの涙を拭う。私たちと話している間にまた溢れていたのだ。そして彼女は眞一郎を上目遣いで見つめた。
「…ごめんね」
「もう謝らなくていいよ。間違いは誰にでもあるんだし。大切なのは同じ間違いを繰り返さないことだろ?」
「…うん、わかった。私、もう一生お酒飲まないわ」
そう言うと比呂美ちゃんは自分で涙を拭う。正直一生飲まないというのはオーバーだと思ったが、それくらい彼女は今回のことを後悔しているのだろう。眞一郎はそんな比呂美ちゃんの頭を嬉しそうに撫でるのだった。


(12)シュレディンガーの猫

旅館を出た俺たちはタクシーに乗って駅に向かった。助手席に座った俺は背後の眞一郎たちの姿をミラー越しに覗き見る。後部座席では湯浅さんを中央にして右に眞一郎、左に愛ちゃんが座っている。全員ずっと押し黙ったまま何も喋らない。何か思うところがあるのか、あるいは何を話していいのかわからなくなっているのか、いや多分両方なんだろう。よく見ると湯浅さんは眞一郎の腕を掴んで寄り添うようにして眠っているように見える。
「寝てるのか?」
「ああ」
俺の疑問に眞一郎が答えてくる。多分泣き疲れたんだろう。気のせいか湯浅さんの眼鏡越しに見える閉じた目から涙が滲んでいる様に見える。
「湯浅さんって眼鏡かけるんだな」
「ああ、知らなかったっけ?」
眞一郎は俺が知ってるものとばかり思っていたようだ。
「私も今回初めて知ったよ。目悪かったんだね」
そこまで言った愛ちゃんは何かに気づいたのか目を見開いて口を抑えた。
「あ!」
「どうした?」
「うん、そういえば昨日私比呂美ちゃんのコンタクトレンズ踏んで割っちゃったんだ…そのせいかも…」
愛ちゃんはしょげながら言葉を続ける。
「ごめん…」
「いや、愛ちゃんのせいじゃないよ。一番悪いのは比呂美なんだから」
眞一郎は意外な事に湯浅さんに非があるとしてきた。
「意外だな。さっきの口ぶりだと湯浅さんは悪くないと思ってるものとばかり…」
「初めての酒をあんな飲み方するほうが問題だろ?それにコンタクトが割れたって眼鏡があるんだから…」
「じゃあ、なんでさっきは比呂美ちゃんを擁護したの?」
愛ちゃんの質問を受けた眞一郎は湯浅さんの頭を撫でながら呟く。
「比呂美は頭がいいんだ。だから自分が一番悪いことはちゃんとわかっている。だから他人が責める必要なんか無いんだよ」
「でもそれでも一度はきちんと言うべきなんじゃ…」
眞一郎は愛ちゃんを見つめて穏やかに反論する。
「比呂美は弱いんだ。ちゃんと、ちゃんと誰かが守ってやらないといけないんだ」
「弱い…」
呆然としながら呟く愛ちゃん。眞一郎はまた湯浅さんを見つめて頭を撫で始めた。

そうこうするうちにタクシーは駅前へとたどり着いた。まだ列車の時間にはいくらか間がある。とはいえ列車の本数を考えるとタイミングが良いほうだろう。そんなことを考えつつ代金を払うために財布を出す。支払いを終えた俺はまだ後部座席にいる眞一郎と湯浅さんに気づく。何でまだ降りてないんだ?愛ちゃんはとっくに降りているのに。
「なにやってんだ?」
「ああ、比呂美を起こさないようにと思ってな」
俺の問いかけに答える眞一郎は湯浅さんに肩を貸しながらそっとタクシーの外に出る。俺も助手席を後にして眞一郎を手伝おうと近寄る。
「手伝うよ」
「いや、いいよ…いや、比呂美をおぶりたいからちょっと手を貸してくれ」
そして眞一郎は湯浅さんを一度俺に預けるとこちらに背を向けてしゃがみ込んだ。俺は湯浅さんに肩を貸すように支えつつ眞一郎の背中に負ぶさる様な位置に持っていく。愛ちゃんはなにも言わずに湯浅さんの手を眞一郎の肩の上に置きなおす。
「こんなもんかな」
「よし立つぞ」
そして眞一郎は彼女を背負ってゆっくりと立ち上がる。
「さ、行こうか」
そういって歩き出す眞一郎。
「…眞一郎君?」
眞一郎の背中ではっきりしない呟きが聞こえる。姿勢をいじられたせいだろう湯浅さんが目を覚ましたのだ。
「ここどこ?」
湯浅さんは眼鏡の隙間から指を入れ目をこすりつつ回りを確認している。
「駅だよ。まだ寝てていいんだぞ」
「うん、わかった…」
そういうとまた湯浅さんは目を閉じて寝息を立てはじめる。眞一郎はそんな彼女を優しく見つめるとまた歩き始めた。そして先を行く眞一郎を見守りながら愛ちゃんは呟いた。
「私、ずっと誤解してた」
「何を?」
俺は正面を見つめる愛ちゃんの横顔を見ながら尋ねる。
「比呂美ちゃんのこと。眞一郎のこと。ずっと比呂美ちゃんは強くてしっかりした子だって思ってた。眞一郎が比呂美ちゃんを好きなのは強くてしっかりしてるからだって思ってた。でも違ってた。眞一郎が比呂美ちゃんを好きなのは本当は弱いから。私馬鹿だよね。何を見てたんだろう」
愛ちゃんは自分を嘲る様な笑みを浮かべた。
「私は眞一郎に見てもらえるような子になろうって、強くてしっかりした子になろう…少なくともそう見えるような子になろうって…馬鹿だよね本当…過去を変えることは出来ないけど、もしちゃんと弱さを見せていたら眞一郎は私のものになってたかも知れないんだ…」
俺は思わず愛ちゃんの手を握り締める。
「俺は!俺なら!愛ちゃんをずっと!愛ちゃんだけを見つめていられる!ありのままの愛ちゃんを!」
そして俺は愛ちゃんの目に涙が滲んでいるのに気づく。
「ありがとう。三代吉。ごめんね。もうちょっとだけ時間が掛かりそう…でも、ちゃんと吹っ切るから。いつかちゃんと三代吉だけを見てあげるから…」
そういって俯いた愛ちゃん。そして彼女の頬を涙が流れていく。俺は何か気のきいたことを言わなければと口を開こうとする。
「おーい、切符買ってくれよ。俺たちの分も」
絶妙のタイミングで掛かる眞一郎の声。すでに駅舎のまん前まで進んでいた眞一郎が俺たちのほうに振り返って叫んだのだ。愛ちゃんは涙を拭うと俺に向かって微笑む。
「さ、行こう。大事な友達が待ってる」
何も言い返せない俺の手を掴んだ愛ちゃんはそのまま小走りに走り出した。
「ほら、早く」
「わかったから、そう急かすなよ」
そして俺たちは笑いながら駅舎へと進んでいく。そう、あせる必要はないんだ。俺たちは眞一郎たちとは違う。自分たちのペースでゆっくり進めばいいんだから。俺たちの乗る鈍行列車の出発はもうちょっと先なのだから。




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あとがき:

なんか比呂美寝てばっかりだな。という訳で実時間から約1年遅れの二次創作の新作です。今回は章ごとに一人称視点キャラが切り替わる“聖エルザクルセイダース”方式でお送りしたわけですが(たとえが古い)誰の視点かすぐわかるよねえ?厳密には3月中旬の話も今回同様聖エルザ方式だったんだけどあれは短い話だったし時間の流れも単純だからそう混乱はしないと思う。だが今回は長い話だ。予測はしてたが本当に長い。それにテーマ的には愛子がメインなのに描写自体は比呂美が中心になるというイレギュラーな話だ。個人的にはあまり失敗せずにですんだような気がするのだが…あ、電車内での食事のシーンは失敗ですね。本来は比呂美のお弁当だけの予定だったのに駅弁食べさしたほうがよくないか等と迷いが生まれてしまい、でも比呂美寝不足を説明する要素は必要だ。でないとあの台詞が出せない。等と迷走したあげくに駅弁とお弁当の両方を食べさせるという展開に。正直テーマともかみ合ってない駄目シーンになりましたとさ。…駄目じゃん俺。でも卓球シーンは予定外だったけど失敗にはなってないと思う。描写の下手糞さとかは失敗以前の問題だから関係ないしね!…いや、俺ももうちょっと文章がちゃんと書けるようになりたいとは思うんだけど。ま、あせっても無能はどうにもならないんで自分のペースでやっていきましょうと自己弁護。俺の乗るトロッコの速度は誰よりも遅いのだから。

2009-04-25(Sat)

二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(中編)

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(中編)
           この話は前編からのつづきになります。こちらからどうぞ。







(5)油の浮力

「疲れたーっ」
湯船に漬かった私は思わずそうつぶやいていた。私の後に続いて比呂美ちゃんも湯船に入ってきた。
「愛ちゃんって相変わらずじゃんけん弱いんだね」
「比呂美ちゃんが強すぎるだけだよ…」
私は呆れるように青空を見上げた。そうここは露天風呂だ。そして今はまだ空が夕焼けを見せるにはまだ少し早い。すると隣から比呂美ちゃんが私の胸元をじっと見つめてきた。
「な、何?」
私は思わず胸をかき抱くように腕で覆い隠す。まあ実際は簡単に隠せるような胸ではないのだが。すると比呂美ちゃんは口を尖らせるような口調で呟いた。
「絶対追いついてるって思ってたのに」
そういう比呂美ちゃんの胸もプカプカと温泉に浮いている。いつの間にこんな成長を遂げたのだろう。もう私と大差ないくらいの大きさにまで育っている。
「すごいよね。これならもうじき追い越されちゃうわ」
私は彼女を称えずにはいられない。そしてちょっと悲しくなってしまう。唯一と言っていい私が彼女に勝っている点、すなわち胸の大きさもいずれは負けてしまうのだ。ウエストの細さもそこそこ自信があったのだが彼女にはかなわない。ヒップは私のほうが少し大きめだろうか?でも身長の差が大きいからトータル的なスタイルは彼女のほうがずっと上だろう。それに髪を上げた比呂美ちゃんのうなじは年下とは思えないほどに色気を醸し出している。ため息を出るのをなんとかこらえた私は気を取り直して彼女に尋ねてみた。
「私的にはちゃんと男女別々のお風呂で助かったと思うんだけど…比呂美ちゃんはやっぱり混浴の方が良かった?」
「ううん、混浴はいや」
意外な答えを返す彼女。
「眞一郎と一緒に入りたくないの?」
「そりゃ眞一郎君と二人っきりの貸切ならね。でも私の体を他の男に見せたり、眞一郎君の裸を他の女に見せたりしたくないし」
「深夜とか早朝とかは?」
「人のいなさそうな時間を狙ってくる人だっているでしょ?」
「そういうことか」
比呂美ちゃんは本当に独占欲が強い。確かに子供の時にも眞一郎の隣に私が座っていると間に強引に割り込んできたりしてきたっけ。私が昔を思い返していると比呂美ちゃんは話を続けてきた。
「そもそも私がやりたいのは洗いっこだし」
「洗いっこ?」
「うん、眞一郎君の体を私が隅々まで洗ったり、洗ってもらったり」
「自分のとこじゃ出来ないの?」
「ユニットバスじゃねえ…二人入ると狭くて狭くて…」
どうやら一緒に入ったこと自体はあるらしい。私にはユニットバスの広さというのはよくわからないのでピンとこなかったが。
「眞一郎の家は?」
「…おばさんとか大抵家に誰かいるし、買い物に行く時間も割りと不規則だもの。家に誰かいる時にはさすがに一緒にお風呂に入れないわ」
「なるほどねえ」
「ああ、一度でいいから彼の体をこの胸で洗ってあげたいな」
そう言うと比呂美ちゃんは発育した胸を両手で持ち上げた。そんな彼女を見ていると逆に私の顔が赤くなってしまう。思い人を手に入れた比呂美ちゃんは本当に大胆になったと思う。普段の優等生の彼女からは想像できない位に。成績優秀で運動神経抜群、礼儀正しい優等生、美人でスタイルもいい。そんな彼女が積極的に異性を独占しようとしたら、私なんかじゃ到底敵う筈もない。いや、たとえ誰であろうと敵わないだろう。そんな事を考えながら私が空を見上げると一匹の烏が鳴きながら横切っていくのが見えた。それはまるで負け犬にしかなれない私をあざ笑っているかのようだった。


(6)固体の熱膨張

「どうせなら混浴が良かったよなあ」
頭を洗いながらついつい俺の口から漏れ出てしまう本音。体を洗っている眞一郎はそんな俺の願望に口を挟んできた。
「でも、一緒に風呂に入れるほど進展してるわけじゃないんだろ?」
「それをいっちゃおしめえよ。でも湯浅比呂美の裸も見たいしな」
眞一郎が俺を睨む様な気配がする。
「…比呂美の裸は誰にも見せる気はないぞ」
「自分一人だけのものってか?羨ましいよ」
俺は湯を頭から被りシャンプーの泡を洗い流した。そして頭を振って水気を少し飛ばす。
「まあいずれは俺もそういうこと言えるようになってみせるぜ。いや寧ろ愛ちゃんにそういうことを言わせたい!」
思わず拳を握って青空を見上げてしまう。隣の眞一郎も俺を応援する意を示した。
「頑張れよ」
「そして“イク、イク、イっちゃうぅ!”とかも言わせて見せるぜ!」
立ち上がって叫ぶ俺の脳裏にふとした疑問が浮かぶ。俺は立ったまま眞一郎を見下ろした。
「どうした?」
俺はしゃがみつつ眞一郎に顔を寄せ小声で話しかける。
「ちょっと聞きたいんだが…女の子ってイクときに実際今みたいな事言うのか?」
眞一郎は体を洗う手を止めた。
「一般論を聞かれても困るが…」
「お前らの場合でいいんだよ。教えてくれよ」
眞一郎は俺から目を逸らしながら呟いた。
「…眞一郎君…」
「は?」
思わず聞き返してしまう俺。眞一郎は体を洗う手を早めながら答える。
「だから!眞一郎君眞一郎君って繰り返すんだよ…」
「イク時にか?」
「だからそういってるだろ!」
真っ赤になりながら声を荒げる眞一郎。俺は呆れながらも奴を羨望の目で見つめるしかなかった。
「それってお前じゃないとイかないっていうことじゃねえか…くそぅ、羨ましすぎだぜ」
俺の脳裏に眞一郎を強く抱きしめながら名前を連呼している湯浅さんの姿が浮かんできた。下半身に血液が集中し始める。俺も愛ちゃんに名前を連呼されたい。脳内で想像した眞一郎と湯浅比呂美の姿が俺と愛ちゃんに摩り替わる。妄想内で俺の名前を連呼しながら抱きしめてくる愛ちゃん。そして気がつくと俺のイチモツは元気な姿を見せていた。
「やべ、勃っちゃったよ」
眞一郎は呆れ顔を見せながら笑う。
「おいおい」
俺は元気になった竿をしっかりと洗うことにした。
「ちゃんと洗っておかないとな」
隣の眞一郎に呆れられながらも俺はその後しばらく妄想を止める事ができなかった。今夜の愛ちゃんとの初夜が実現できることを熱望しながら。


(7)慣性モーメント

最初に温泉宿に卓球台を置こうとしたのは誰だろう。というか温泉宿に卓球台があるというのも物語の上での話で実際に置いてあるとは思ってなかった。そんな訳で湯上りに卓球台を見つけた私がとちょっと感動してしまったのも無理からぬ事なのだ。卓球台の存在に喜んだ私は思わず眞一郎君たちを誘ってしまう。でも私は別に卓球が得意という訳ではない。そんなに経験がないからだ。だけども体を動かす事自体は大好きだ。卓球だって例外ではない。そういうわけで半ば私が無理矢理誘った形でこの風呂上りの浴衣姿での卓球大会は始まったのだった。

「比呂美ちゃん上手すぎるよ…」
一点も取れずに終わってしまった愛ちゃんは浴衣の着崩れがないか確認しつつため息をついた。そうだろうか?中学時代に昼休みの教室で机二つを使って卓球をしていたクラスメイトたちを見つけたときに混ぜてもらった事がある。そのうちの二人は卓球部員だったが私は勝つことは出来なかった。その後ピンポン球に寿命が来るまでの何日か教室卓球に混ぜてもらったが結局卓球部員に勝つことは叶わなかった。惜しい所まではいったのだが…いや、これは言い訳だ。敗北にはかわりがない。とにかく私は卓球部員ほど上手くはない。つまりは愛ちゃんが弱すぎるだけだと言うことだ。それに愛ちゃんは途中で勝負を諦めてしまった節がある。結果が見えてても最後まで全力を出し切るのがスポーツマンシップというものなのに。
「よし、次は俺とやろうぜ」
野伏君の立候補で第2戦が始まる。ちょっとは楽しめるかもしれない。そう感じたのは少々買いかぶりだったようだ。愛ちゃんよりはずっと上手いものの、卓球部員には程遠い。私から見ても役者不足だった。2点ほど取られてしまったがほぼ圧勝と言っていいだろう。完敗してしまった野伏君は肩を落としている。ひょっとしたら彼は愛ちゃんの前で良い格好をしたかったのかも知れない。でもスポーツの世界は、勝負の世界は常に非情なのだ。手を抜くことは逆に失礼だと私は信じている。私は一度浴衣が崩れてないか確認した後、私は残った眞一郎君を見つめる。眞一郎君には和服がよく似合う。浴衣姿の彼は普段よりも5割り増しで眩しく感じられる。そんな眞一郎君は困ったような顔をしつつ卓球台に歩み寄ってラケットを手にした。
「俺じゃ比呂美には勝てそうにないけど…」
そういうと眞一郎君は真剣な面持ちを見せてきた。

眞一郎君は愛ちゃんと野伏君の中間位だろうか。いや、やや野伏君寄りだろう。どっちにしろ私を苦戦させるには程遠い。結果は1対11。ほぼストレート勝ちだ。
「やっぱり比呂美には敵わないな」
そう漏らす眞一郎君の顔には柔らかな微笑が浮かんでいる。彼は私の勝利を喜んでくれているのだろう。私も彼に微笑を返す。すると野伏君が予備のラケットを持って台に近づいてきた。
「よし、じゃあハンデ付きでやろうぜ。2対1だ」
どうやら野伏君は眞一郎君と組んで二人で私一人に挑むようだ。私は少し浴衣を直しながら応える。
「いいわよ。ダブルスなら本来は打ち返すのは交互にしないといけない筈だけど、別に無視してもいいわ」
「舐められたもんだな」
「それなら比呂美といい勝負になるかもな」
そしてハンディキャップマッチが始まる。まずは眞一郎君のサーブ。とりあえず確実に入れる事を狙ってきた緩めの球だった。チャンスボールだ。私はそれを見逃さずにスマッシュ。スピードが乗ったボールに眞一郎君たちは反応できない。ボールは台の端に弾かれて床の遠くのほうに落ちた。
「うわ、あんなの返せないよ」
観戦していた愛ちゃんが呟きを漏らす。
「くそ、眞一郎、もっと強い球打てよ」
ボールを拾って戻ってきた眞一郎君は頷きながら玉を野伏君に投げ渡した。そして今度は野伏君のサーブ。私に緩い球を渡しては駄目だと強めのサーブを放ってきた。だがチャンスボールとは言えないものの特に苦もなく返せる球だ。私は相手コートの隅目指して打ち返す。そして眞一郎君はそのボールの正面まで動き打ち返してくる。返されたボールを私はじっくりと見つめボールの下側でラケットを前に滑らせながら打ち返す。私の打った緩めの球を見て野伏君が眼を光らせる。そしてバウンドした球を打ち返そうとする。だがピンポン球は余り手元に跳ねてこない。慌てて野伏君は前に出てくるも球の2バウンド目には間に合わない。2度目のバウンドはさらに前に跳ねなくなっている。そして3バウンド目には球は後ろに向かって、すなわち私の方に跳ねてきた。うん、ちゃんとバックスピンはかかった様だ。
「あんなの返せないぜ」
野伏君が泣き言を言ってくる。眞一郎君はボールを拾って私に投げつつ感心の意を示してきた。
「すごいな比呂美。いつ覚えたんだ?」
「うん、昔ね」
先ほどの教室卓球にて卓球部員の一人が使っていた技を私は見よう見まねで練習してみた事がある。いくらか練習していたら出来るようになった。卓球部員が言うにはバックスピンではなくカットと言うらしい。久しぶりだから不安だったがいい感じに決める事が出来て私は満足していた。結局ハンデ戦と言っても3点ほど取られただけで私を苦戦させる事なく終わってしまう。レベルが違うとの事でその後は私は観戦側に徹する事を強要された。その後何通りかの対戦を観る事になったが、その中でも眞一郎君と野伏君のカードは低レベルとは言え結構な接戦を見せ、観客を楽しませてくれる。やがて夕食の時間が来た事に気づいた私たちは部屋に戻る事になった。だが結局愛ちゃんは誰と対戦しても余り良い試合を見せてくれなかった。そして心なしか愛ちゃんの顔がちょっと悲しげに見えたのは私の気のせいではないのだろう。でも仕方ない事だ。勝負の世界はいつだって非情なのだから。


(8)ビタミンとその他の栄養分の摂取

夕食は中々豪華だった。山間にある温泉宿だから山菜が中心になると思いきや、それだけでなく川魚や海の幸もふんだんに取り入れてある。さらに言えばかなりの美味だった。それに旅館自体もわりといい雰囲気だ。俺たちがいる部屋は二部屋を仕切る襖を開けて一つなぎにしてある。ようするに寝るときは襖を閉じて元の二部屋に戻すことも出来るのだ。うまくいったら半額払うと三代吉が言っていたからてっきり安い旅館のぼろい部屋に違いないと踏んでいたのだが。ようするにそれだけ三代吉が本気だと言うことなのだろう。俺は三代吉と愛ちゃんの仲の進展を祈らずにはいられなかった。そんな中、俺は仲居さんが一升瓶を運んできたのに気づく。
「お、来た来た」
「おい、三代吉…」
俺が三代吉に意見を発しようとすると奴は俺に向かってウインクを見せた。
「硬い事はいうなよ。折角親の目が届かない所にいるんだぜ」
「それ、お酒だよね」
愛ちゃんの言葉を肯定しながら三代吉はグラスに日本酒を注いでいく。
「お前だって飲んだことないわけじゃないだろ」
「いや、ない訳じゃないけど」
「眞一郎君、お酒飲んだことあるの?」
比呂美が俺の隣で少し責めるような目を見せてくる。
「いや、子供の頃さ。こっそり店の酒を飲んだ事あったんだ。そしたら酔っ払って転んで酒瓶を沢山割っちゃって…親父と母さんにこってり絞られたよ」
「そんなことあったんだ」
「それ以来はずっと飲んでないんだ」
それを聞いた比呂美は納得を見せるも、すぐに三代吉を睨みだした。
「未成年者の…」
「湯浅さんは飲めないの?酒蔵の嫁になる女なら酒ぐらい飲めないと行けないよなあ」
三代吉のちょっと挑発するような言葉に比呂美は何かを感じたように暫く何か考えているようだったが、やがて意を決したかのように口を開いた。
「…そうね。仲上の嫁ならお酒の嗜みは必要かもね」
あっさりと説得された比呂美の横顔を見ながら俺は肩を竦める。その時俺は愛ちゃんの視線に気づいた。彼女もまたちょっと困ったような呆れたような目を見せている。
「愛ちゃんは飲めるの?」
俺は疑念を確かめてみる。
「どうかな?父さんは飲むけど母さんは飲まない人だし」
「ま、とりあえず一口だけでも飲んでみようよ」
そういうと三代吉は全員に日本酒を入ったコップを廻していく。そしてコップを高く掲げた。
「それでは眞一郎と湯浅さんの未来と愛ちゃんの幸福を祈って、乾杯!」
「乾杯」
乾杯と言うのは本来は杯を乾かすと書く。すななわちコップを空にしないといけない筈。余り日本酒でやることじゃないだろう。俺も二口ほどで止めておいたし、案の定三代吉もコップ半分も飲んでいない。そんな中愛ちゃんがゲホゲホと咳き込んでいた。
「大丈夫?」
俺は不安になって愛ちゃんの顔を覗き込む。愛チャンは青ざめた顔をしていた。
「やっぱり駄目。私にはお酒は合わないんだよ。きっと」
「無理して飲むことないよ」
そういうと三代吉は愛ちゃんが使ったコップを受け取って残りのほぼ一杯分の酒を一気に飲み干した。
「おお、すごいな三代吉」
「任せろ!」
俺の賛辞を受けて調子に乗る三代吉。そんな中、俺は比呂美が空のコップを差し出しているのに気づいた。比呂美は顔を真っ赤にしながら微笑んでいる。
「お酒っておひしいのね」
「大丈夫か。無理しちゃ駄目だぞ」
「らいじょうぶ、無理なんかしれないわよぉ。もういっぱい」
大丈夫じゃない。すでに呂律が回ってない。
「お、いける口かい?」
そういうと三代吉は比呂美の持つ空のコップに日本酒を注いでいく。だが注ぎ終わるや否や比呂美はそれを一気飲みしてしまう。
「おい、比呂美。そんな飲み方するなよ」
初めての酒でする飲み方ではない。こんな飲み方だと急性アルコール中毒にもなりかねない。俺は彼女にこれ以上飲ませないようにしなければと思う。
「なによ、別にいいじゃない…あ、わかったわ。酔い潰れちゃうろ、おらのしみら無くなっちゃうもんね」
そういうと比呂美は俺に体を寄せてくる。
「らいじょうぶらから。なんならひまここでする?」
比呂美は蕩けたような瞳で俺の浴衣の中に手を差し込んできた。
「おいおい、人前だぞ」
俺は比呂美の手を掴むと彼女自身の太腿の上に持っていく。すると三代吉は呆れたような声で俺たちを揶揄してきた。
「お熱いねえ」
すると比呂美は頷きながら浴衣の胸元を少し肌蹴る。
「あつひの」
「おおおお」
「三代吉…」
感嘆する三代吉とそれを白い目でみる愛ちゃん。俺は三代吉に比呂美の胸元を見せないように胸の中に抱き寄せた。
「しんひちろうくん…」
「全く…」
俺の胸に頬を寄せる比呂美は目を閉じる。そして呂律の回ってない言葉を発しなくなったかと思うとやがて静かな寝息をし始めた。
「寝ちゃったのか?」
「みたいだな。ちょっと座布団轢いてくれ」
「おう」
三代吉に座布団を並べてもらうと俺は比呂美を抱えて座布団の上に横たえた。その安らかな寝顔を見て俺は一安心する。とりあえず彼女は急性アルコール中毒とは無縁なようだ。でもこれからちゃんと自分に見合った量を覚えさせないと駄目だろう。そう考えながらテーブルに戻った俺は酒を一口飲むと刺身に箸を伸ばすのだった。

    (後編へつづく)

2009-04-25(Sat)

二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(前編)

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(前編)








(1)形容詞の比較級

私が小学校からお店へと直行すると、中にはすでに比呂美ちゃんと眞一郎の姿があった。
「あ、愛ちゃん」
「おかえり」
私に気づいた二人は挨拶をしてくる。本来はこの店は自宅ではないのだが、二人にとってはここが私の家という感覚なのだろう。私も彼らの挨拶に普段どおりに返すことにする。
「ただいま」
そういうと私はランドセルを椅子の上に置きながら二人の対面に座った。
「父さん、コーラ」
私は今川焼きを焼いている父さんに向かって注文をする。父さんはしかめっ面をしながらぶっきら棒に返答してくる。
「今は手が離せないな。自分で出しな」
私は渋々立ち上がると厨房側に入ってコーラのビンを取り出した。そして栓を抜きストローを差し込んでまた客席に戻る。
「大体コーラだってただじゃないんだぞ」
父さんの愚痴はいつもの事だ。取りあえず私は無視を決め込む事にした。そして対面で紙切れをじっと覗き込むようにしている二人に尋ねる。
「何?」
眞一郎が紙切れを仰ぐようにしながら答える。
「テストだよ。算数の」
「眞一郎君、ちょっと点数が悪かったって言うから、少し教えていたの」
「ふうん…」
二人の返答を聞き流す私。すると父さんはボソリと呟いた。
「比呂美ちゃんはすごいよね。うちの娘もそれくらい優秀だったら良かったのに…馬鹿で困るよ。チビだしな」
父さんの言葉に含まれている小さな針が私の心に刺さってくる。
「…どうせ私は頭悪いですよ。それにチビは父さん譲りだよ」
たしかに私はテストの点数があまり良くない。それに比呂美ちゃんは私に読めないような難しい漢字ですらもすらすらと簡単に書いてしまう。テストも殆ど100点に近い点数しか取った事がないらしい。私とは根本的に頭の出来が違うのだ。そして身長も年長の私が3人の中で一番低い。私には年上の面目と言うものが保てる事など殆どないのだ。そんな事を私が考えていると眞一郎が父さんを見つめて反論しだした。
「愛ちゃんは馬鹿じゃないよ。おじさん」
眞一郎の言葉は私の心に刺さった小さな針をゆっくりと溶かしていく。そう眞一郎は、眞一郎だけは私と比呂美ちゃんを比べない。比べたりしないのだ。そして私は眞一郎を見つめる。いつだったろうか。この思いに気づいたのは。いつの間にか眞一郎は私にとって特別な存在になっていた。その眞一郎は隣の比呂美ちゃんから答えの出し方を聞いて頷いている。眞一郎の隣にいると比呂美ちゃんは本当に楽しそうな顔を見せるのを私は知っている。そう、わかっている。彼女もまた私同様に眞一郎の事が好きなのだ。そして多分眞一郎も…
「坊ちゃんは優しいねえ。誰かと違ってただ食いもしないし」
父さんの言葉が私の心にまた小さな針を刺した。
「別にいいでしょ。うちの店なんだから」
私は父さんの言葉に傷ついている事を表に出さないように気をつける。眞一郎が好きなのは比呂美ちゃんのようなしっかりした子なのだ。私はもっとしっかりするか、あるいはしっかりして見えるようにしなければならないのだ。私は棚の方まで行きトランプを取り出すとテーブルの上に置いた。
「勉強は学校できちんとすればそれでいい筈。学ぶときは学ぶ。遊ぶときは遊ぶ。けじめをつけないとね」
「愛ちゃんの言うとおりね。じゃ、続きはまた次の機会にしましょう」
比呂美ちゃんは私の言葉に同意したようだ。眞一郎もまた私の意見に納得したようでテスト用紙をランドセルに仕舞い込んだ。
「さ、何する?」
トランプを切りながら尋ねる私。
「じゃあまず七並べで」
「オーケー」
私は比呂美ちゃんのリクエストに従ってカードを配り始めた。その後、ブラックジャックやポーカー、ダウトなど幾つかのゲームに切り替えたが、その殆どは比呂美ちゃんの圧勝だった。頭を使うのも得意なら運もわりと強い。そしてスピードなどの反射神経が重要なゲームもまた彼女の独壇場なのだ。私は彼女にはずっとかなわないのかも知れない。そんな事を考えてしまう。私同様に負けている眞一郎は何故か嬉しそうに比呂美ちゃんを見ている。眞一郎は比呂美ちゃんが勝つのが嬉しいのだろうか?そんなに強くてしっかりした子が好きなのだろうか?眞一郎は私を一番に見てはくれないのだろうか?そんな葛藤を抱え続けた私が眞一郎の好みを誤解していた事を知るのはまだずっと先の話になるのだった。


(2)1/fゆらぎの振動

電車の振動が眠気を誘ったのだろう。いつのまにか湯浅さんは隣の男にもたれかかる様に居眠りをしている。
眞一郎はそんな彼女を隣で愛しそうに見つめている。こいつらは本当に通じ合っているというのが俺の目にもわかる。本当に羨ましい限りだ。いつかは俺と愛ちゃんもこいつらみたいになれるのだろうか。俺は隣にいる一つ年上の小柄な少女に目を向けた。愛ちゃんもまた眞一郎達を見つめている。ただその視線は俺とはまた違った意味を持っているように思える。多分彼女の中にはまだ眞一郎への未練が少し残っているのだろう。そんなことを考えていると彼女が視線に気づいて俺の方を見つめる。俺が慌てて目を逸らすと彼女もまた視線を泳がせたようだ。まずい。こんな時はなんと言えばいいのだろう。そんな事を考えていると車内アナウンスが流れ始めた。どうやら大き目の駅に着くらしい。まだまだ先は長い。そろそろ腹に何か入れておくといいかもしれない。
「腹へらね?」
「いいけど。駅の構内で?」
愛ちゃんが俺の顔を覗き込んできた。
「いや、どうせなんだから駅弁でも食おうぜ。眞一郎もいいよな?」
「俺は構わないが…」
眞一郎はそう答えると眠っている湯浅さんを見つめる。そして少し躊躇した後、彼女の肩を揺らし始めた。
「おい、比呂美。起きろ」
湯浅さんは寝ぼけ眼を擦りながら姿勢を正す。
「うーん」
「駅弁どうする?」
「…眞一郎君はもうちょっと足腰鍛えたほうが…」
なにやら意味不明な返答をする彼女。
「…寝ぼけてるな」
正直、湯浅さんのこんなだらしない姿を見るのは初めてだ。彼女にもこういう面があるとは思いもしなかった。眞一郎は彼女のこんな姿も見慣れているのだろうか。奴はただ優しく恋人を見つめていた。
「比呂美、食事どうする?駅弁でも買うか?」
眞一郎の言葉に湯浅さんは段々意識がはっきりしてきたらしい。
「ご飯?」
欠伸交じりに会話の内容を確認してくる湯浅さん。そんな彼女から視線を俺の方に移しながら愛ちゃんが口を開いた。
「私は鱒寿司がいいかな。三代吉は?」
「俺も同じでいいよ」
「じゃ、俺たちも…」
眞一郎も俺たちの答えに習おうとすると湯浅さんは奴の前に手を出してそれを制止した。
「ちょっと待って」
「他のがいいのか?」
眞一郎の問いかけに湯浅さんは手荷物をあさり始める。
「一応おにぎりは少し用意しておいたけど…どうする?」
そう言うと彼女はタッパーを取り出した。
「別に今すぐ食べなくても夜食とかにする手もあるけど」
そう付け足す彼女。俺と愛ちゃんは顔を見合す。
「じゃあさ、鱒寿司を一個だけ買って皆で分けるってのは?」
眞一郎の提案。だが愛ちゃんから忠告が入る。
「小さいのもあるけど…本来の鱒寿司は一個で二人分以上あるのよ?」
「大丈夫だって。俺も眞一郎も結構食うし。お握り食って鱒寿司の半分くらいなら十分食いきれるだろ」
俺はおにぎりも鱒寿司も食べきることが出来ると断言して見せた。
「私は少食なんだけどな」
「大丈夫、愛ちゃんが残しても俺が全部食って見せるから」
で結局俺の意見が採用され俺は2個分つまり四人分の鱒寿司をホームの売店で購入した。そしてまず鱒寿司を分割して皆で食べる。おいしいねとそれぞれが一口目の感想を述べていると列車はまた動き出した。そして動く列車の中のボックス席で流れる景色を眺めつつ仲良く駅弁を食べる。本当に俺たちは旅行をしているんだという実感が沸いてくる瞬間だ。そして結局愛ちゃんは半分の鱒寿司の内の4分の3ですなわち8分の3、残りの8分の5は俺が食べることになった。眞一郎も湯浅さんもきっちり半分食べきったようだ。そして眞一郎は湯浅さんの用意したおにぎりに手をつけ始めている。どうやらおにぎりはまたも筍の炊き込みご飯らしい。ちょっと拘り過ぎだと感じながら俺もおにぎりに手を伸ばした。8個用意してあったおにぎりの内の半分の4個が俺のノルマだったわけだが正直2個食った段階でもう腹いっぱいになっていた。だが食べるといってしまった手前投げ出すわけにもいかない。
「大丈夫?三代吉」
愛ちゃんが心配そうな顔を見せてくるも俺は大丈夫と強がって何とかノルマを平らげることに成功した。眞一郎も自分のノルマをこなしてちょっと苦しそうだ。
「ごめんね、眞一郎君。私が勝手におにぎり作ってきたばっかりに…」
「大丈夫、すぐに消化するよ。これくらい」
湯浅さんは眞一郎の心配ばかりで俺のことは全く気にかけてないようだ。まあ彼女はそういう性格だというのは俺もとっくに気がついている。むしろ愛ちゃんが眞一郎でなく俺の心配をしてくれたことを喜ぶべきだろう。俺たちの距離は着実に近づいている。今回の旅行の間にゴールできる可能性がまた少し上がったと俺は感じていた。

食事の後はトランプで時間を潰す事になった。トランプは先月愛ちゃんからの眞一郎への誕生日プレゼントとして渡したやつだ。電車の中でも出来るゲームは限られる。ババぬきやポーカー、ページワン、この3種のゲームを行ったが、その殆どは湯浅さんの一人勝ちになった。始まる前にトランプと聞いて愛ちゃんが苦い顔をした理由がなんとなくわかった気がする。勝ちが一人に偏ると負け続きの残りの者はあまり楽しくなくなってしまう。これ以上場の空気を悪くしたくないと感じた俺がもうトランプは止めようと言いかけたとき車内アナウンスは目的地が近づいたことを教えてくれた。助かったと俺は胸を撫で下ろす。隣の愛ちゃんもまた同じように胸を撫で下ろしていた。同じことをしていた事に気づいた俺たちは顔を見合わせて苦笑いをしたのだった。


(3)オーガズム曲線

至福の時間は十数分間ほど続く。男の子だと絶頂はすぐに終わってしまうらしい。女に生まれて本当に良かったと思う反面、眞一郎君がかわいそうだとも思う。そのかわいそうな眞一郎君はコンドームを結んでロフトのベッドサイドに常備してある小さなゴミ箱に放り込んだ。そしてその傍にあるティッシュ箱から2枚を取り出して一枚を私に差し出した。
「ありがと」
私はティッシュを受け取るとラブジュースで濡れた股間を拭いた。眞一郎君もティッシュで後始末をしている。そして眞一郎君はそれをゴミ箱に放り込むと私をしばらく見つめて口を開いた。
「なあ、お前ゴールデンウィーク予定空いてるよな」
「うん。空いてるけど」
私は丸めたティッシュを眞一郎君に投げる。眞一郎君はそれを受け取るとまたゴミ箱に捨てた。
「うん、実は…三代吉がな」
「眞一郎君は野伏君とどこか行くの?」
私は思わず眉をひそめる。恋人をそっちのけにして友達と遊びに行くというのだろうか?
「いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけどちょっと違うんだ」
じゃあ、どういうことなのだろうか?私が頭を悩ませていると眞一郎君は話を続けた。
「四人で出かけないかって」
「四人?愛ちゃんも?この間みたいに?」
春休み中の月曜に私たちは野伏君の提案により四人で遊園地に出かけた。彼にちょっとした借りがあった私たちは誘いを無下に断ることなど出来ないし、愛ちゃんに私たちの熱愛を見せ付けるチャンスでもあったからだ。そして遊園地では私は眞一郎君と思い切りイチャイチャして見せた。愛ちゃんたちはちょっと呆れてたみたいだったが、彼女が眞一郎に未練を残さないようにするには必要なことだったと思っている。そうなふうに私が瞬間的に遊園地での事を思い返している間にも眞一郎君は話を続けていた。
「うん、温泉に行きたいんだと。でも流石に二人きりだと愛ちゃんが首を縦に振らないだろうから」
「なるほどねえ。で予算は幾ら位なの」
「それなんだが、うまく行ったら俺らの分の半額出してもいいって三代吉が」
「うまくって…最後まで行くつもりなの?」
いつの間に二人の関係はそこまで進展したのだろう。もうゴールまで後一息だとは。
「うん、三代吉自身はそういうつもりの旅行らしい」
眞一郎君もそうそう最後までいけるは思ってはいないようだ。
「なるほど…半額ね。うん、わかったわ。行きましょう温泉」
「そうか。良かった。ありがとう。あいつも喜ぶよ」
そういうと眞一郎君は私にキスをしてきた。彼は私が半額に釣られたと思っているかもしれない。でも私の真意は他にある。愛ちゃんが本当に野伏君を選んだのか確認したいのだ。眞一郎君に未練を残してないかはっきりさせたい。そう思って私は温泉旅行に同意したのだ。そして長いキスを終えると眞一郎君は私に質問をしてきた。
「そういやお前って温泉いったことあるのか?」
「ないわよ?家はそんなにお金なかったしね」
「俺もだよ。親父は年中仕事してるから。そんな暇ないみたいで」
お金持ちの眞一郎君が温泉が初めてと言うのはちょっと意外だったが、おじさんの休暇の問題ならば納得が出来る。私が同居していた一年ちょっとの間もおじさんが休みだった日などなかったように思う。本当に仕事一筋な人なのだろう。
「じゃ、私たちはじめて同志だね」
「そうだな」
そういうと私と眞一郎君は笑いあった。初めての温泉旅行。二人きりでないのがちょっと残念だが、初めての恋人との旅行に私の胸は期待を覚えずにはいられなかったのだ。


(4)期待値とのずれ

目的の宿までは結構距離がある。三代吉の予定ではタクシーを使うはずだったらしい。だが歩いて30分位だと聞くと比呂美は歩いていこうと提案してきた。何でも電車の中ではずっと座りっぱなしだったから体を動かしたいらしい。俺は別に歩いてもかまわなかったし、三代吉も体力的には余裕で大丈夫だろう。だが問題となるのは愛ちゃんだ。特に運動が得意と言う訳でもない彼女に30分もの徒歩を強要して良いものだろうか?俺と三代吉が視線で相談していると愛ちゃん本人から賛同を示してきた。まあ、いざとなったら三代吉が肩を貸したりすれば良いだろう。そんな考えを持っていた俺の甘さを比呂美の更なる提案が吹き飛ばしてしまった。電柱1本分歩く毎にじゃんけんをして負けた人に全員分の荷物を持たせようというのだ。これにはさすがに俺も反対した。だが三代吉の賛同と愛ちゃんのどちらでも構わないとする中立宣言によって比呂美案は多数決で採決される事になった。俺一人が反対を押し切っても良くないだろう。仕方なく俺も多数決決議に従うことにする。そして早速じゃんけんをする事になったが、最初の敗者は三代吉となった。三代吉は負けて全員分の荷物を持つことになった割りにやけに嬉しそうだった。そう、今回の三代吉は本当に浮かれている。でもそれも仕方ないことだろう。俺は以前の三代吉との会話を思い出していた。

「よう三代吉」
「おはようさん♪」
下駄箱前で偶然に鉢合わせた俺と三代吉は互いに挨拶を交わした。リズミカルな挨拶が示すようにその日の三代吉は妙に機嫌が良い。
「何かいいことあったのか。あ、俺とまた同じクラスなのがそんなに嬉しいのか?」
俺と三代吉は今年も同じクラスに配属となった。冗談めかして言ったことだがそれは確かに喜ばしいことだった。ただ残念な事に比呂美とは別のクラスになってしまった。まあ、別にあいつの部屋に行けば幾らでも触れ合える。すなわち学校で係われなくとも十分に取り返せるのだ。構わないだろう。大体学校では距離を置こうという比呂美の提案を俺は最初から受け入れている訳だし。ちなみに乃絵と別のクラスだったことに俺は思わず胸を撫で下ろし一安心してしまったのだが取り合えず今は関係ない話だ。
「こないだはありがとな。付き合ってくれて」
「ああ、あれぐらいどうってことないよ」
三代吉の話は春休み中に4人で遊園地にいったことについてだ。三代吉たちはまだ二人きりで本格的なデート出来るような関係にはいたってないらしい。だから俺と比呂美と合わせて4人で出かけることにして愛ちゃんを納得させたのだ。俺としては断る理由もないし、第一三代吉には借りもある。すぐに同意の返事を返した。唯一の不安材料だった比呂美も夜に話を切り出すとあっさりと同意を示してきた。そして決行されたダブルデートは概ね成功を収めたと言っていいだろう。愛ちゃんが絶叫系が苦手なのは意外だったが彼女自身はトータル的にはそれなりに楽しめたらしい。そういえば比呂美がなぜかいつも以上に甘えてきてちょっと不思議に感じたのだが。多分久しぶりの遊園地ではしゃいでいたんだろう。そんなことを考えていると三代吉がにやけながら俺の肩を強く叩いてきた。
「聞いてくれよ眞一郎。聞いてくれよ」
「わかったわかった。聞くからさ、叩くなよ」
俺は背中を擦りながら尋ねる。
「で、何かあったのか?」
「あったなんてもんじゃないぜ!キスだよ!キスしちゃったんだよ!」
「愛ちゃんとか?」
「他に誰がいるよ。あのダブルデートの後、お前らと別れ二人きりになってから話してたらいいムードになってさ…」
「そうか…良かったな」
「橋の真ん中でのファーストキス。俺は一生忘れないぜ」
拳を握って力説する三代吉。そんな三代吉を見ていると俺まで嬉しくなる。
「…でも愛ちゃんは初めてじゃないだよな」
拳を下げる三代吉。俺は慌ててフォローした。
「でも結構ハイペースじゃないか。3ヶ月ちょっとだろ?」
俺の言葉に三代吉は半目を見せる。
「付き合ってすぐに最後まで行ってる奴が言うか?」
三代吉は痛いところをついてくる。反論できずにいる俺に三代吉は言葉を続けた。
「でも俺だって!あと少しなんだ!そう、ゴールデンウィークこそが勝負のときだ!」
「が、頑張ってくれよ」
漫画だったら目から炎が出そうなほど燃えている三代吉。俺はそんな奴の成功を祈らずにはいられなかった。

そして俺が三代吉との会話を思い返してる間も電信柱ごとの荷物もち決定じゃんけんは続き、結局言いだしっぺの比呂美は殆ど荷物を持つこともなく、そして一番荷物を持つことになったのは愛ちゃんだった。途中、疲れを見せた愛ちゃんに三代吉が助け舟を出そうとはしたのだが、比呂美がそれをルール違反だと禁止してしまう。そんなこんなで旅館につくころにはもう愛ちゃんはふらふらになっていたのだった。

    (中編へつづく)

2009-03-15(Sun)

二年次04月中旬:「花見と誕生日」

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次04月中旬:「花見と誕生日」








「ようやく桜も満開だね」
校庭の桜の木を見ながら朋与は呟く。彼女の言うとおり今年の桜はちょっといつもより遅めだった。比呂美は桜の木を見つめて頷く。
「ね、花見とかしない?日曜辺りにさ」
朋与の提案に比呂美は眉を顰める。
「未成年が?お酒も飲めないのに?」
「別にいいじゃん。皆で騒ぎたいだけよ」
比呂美の反論に朋与は口を尖らせる。正直比呂美にはわからなかった。花見という文化は。ただ大人が酒を飲む為に出しにしているだけで桜の必要性などありはしないだろう。
「まあでも花見だけじゃイベントしてはちょっと物足りないか…」
朋与は鞄を持ったまま頭の後ろで手を組んだ。
「なんか他にもイベントないかな…」
「イベントねえ…もうすぐ眞一郎君が誕生日だけど…平日だしね」
「それよ!別に何日かずらして祝ったっていいじゃん!花見と一緒にやろう!!」
「ええ!!?」
という訳で、特に変哲もないバスケ部の練習が終わった直後の帰り道に、お花見兼仲上眞一郎の17回目のバースディパーティの開催が唐突に決定してしまった。これが吉と出るか凶と出るかはまだ誰にもわからなかったという。

比呂美と眞一郎が手荷物を持ってしだれ桜の元にやってくると既に多数の花見客が集まっていた。その中には見知った人たちの集団がいる。今回の参加者たちだ。彼らはスナック菓子をついばみながらわいわいと騒いでいる。だが人数が比呂美たちの予想よりも多い。普段余り話さないような人も結構見かけるのだ。
「なんか多くない?」
「そうだな」
疑問を感じている二人に朋与が気づき声を掛けてくる。
「お、来たね。お二人さん」
「こんなに集めたの?」
比呂美の疑問に朋与は集まった人員を見渡す。
「うん、多いほうがいいかなって思って…冷やかし上等、惚気話を聞くチャンスとか言ったら、以外に集まったの」
よく見ると美紀子は真由の物らしき携帯ゲーム機を手に持ったまま桜の木にもたれて居眠りをしている。真由もまた漫画本を枕にして眠っていた。
「要するにかなり早朝から場所取りをしていた訳だ」
「うん、あさみやあたしも入れた四人で交代しながらね」
辺りには別件のお花見の客が沢山いる。そして自分たちがいる所はしだれ桜に割りに近く、早朝でも中々取れそうにない場所だった。中々幸先が良いな等と比呂美は思った。
「さ、主役もそろった事だし始めようか」
同意した比呂美と眞一郎は靴をぬぎレジャーシートの開いている場所に座る。あさみは美紀子や真由の起こす。二人が大きなあくびをするのを確認すると朋与は立ち上がった。
「えーっ、主役も来たようですし、乾杯の合図に入りたいと…」
参加者たちは話を中断し朋与に注目すると、まずあさみがジュースの蓋をあけ紙コップに注ぎ始める。
「皆も適当についじゃって」
そして他の人たちも近くのジュースの蓋を開いたり、紙コップを差し出したりする。そうして全員が紙コップを手にしたのを確認すると朋与がまた口を開いた。
「で、それではお花見そして数日後の23日に17歳となる仲上眞一郎氏の誕生会を開催したいと思います。それでは仲上君のこの一年が幸福でありますように、そして皆のこの一年が彼に負けないくらいに幸福であたしにも彼氏とかできる事を願って…乾杯!!」
「乾杯!」
朋与の自分勝手な言い草にちょっとウケながらそれぞれがコップに口をつける。そしてまた喧騒が広がっていくのだった。

「足りないわよねえ」
そう言って比呂美は手荷物から取り出したタッパーの蓋を開く。中身はロールケーキだ。そしてロールケーキをタッパーの蓋に移し果物ナイフで切り分けていく。
「幾つ位にすればいいのかしら」
「ケーキか…一人で作ったのよね?」
「うん、今回は私一人でね」
「じゃあさ、それはプレゼントと交換って事にしよう。さすがに全員に渡そうとすると一人分が小さすぎるし、大体ここにいる全員がプレゼントを用意しているわけでもないだろうし」
「なるほど…」
比呂美は朋与の発案に同意する事にするとまた手荷物を漁り始めた。
「じゃあ、クッキーはどう?これなら全員に行き渡るだけあるわ」
比呂美はまた別のタッパーを開き、中のクッキーを隣にいる眞一郎の口元へと運ぶ。眞一郎はクッキーを咥えると口の中に丸々吸い込んだ。
「うん、美味いよ。流石は比呂美だな」
クッキーの甘みを噛み締めている眞一郎の笑顔を確認すると比呂美はレジャーシートの中央へと運ぶ。
「良かったら皆も食べてね」
そして美紀子やあさみたちはクッキーを拾い上げると周りの人に渡し始めた。そして比呂美はまたもや手荷物からタッパーを取り出す。
「はい、眞一郎君」
比呂美が取り出したのは炊き込みご飯のおにぎりだ。眞一郎は礼を言うとおにぎりにかぶりついた。
「なにそれ?何が混ぜてあるの?」
「タケノコ」
朋与の疑問に比呂美が簡潔に答える。
「筍って…ひょっとして西田(さいだ)?」
「ううん、近所の竹林の」
朋与がだした地名はこの辺の筍産地としては有名なものだった。
「西田だったら生で刺身にしても食べられるって話よね」
美紀子の言葉に同意する比呂美。
「朝掘りなら出来るみたいね」
「へえーっ食べてみたいなあ」
露骨な食い気を見せる朋与に比呂美は苦笑しながらちょっと自慢してみる。
「私食べたことあるわ西田の筍のお刺身」
「ええ!?」
「うん、仲上家にいるときにね。日曜の早朝に来客があって、その人が持って来たらしいの」
「うーん、流石に地元の有力者…我々とは色々違うようですな」
「たしかにね。普段は一般家庭と同じなのに稀に高級食材とか食卓に出てくるし」
そんな比呂美と朋与の会話に美紀子が割り込んでくる。
「勝手に取っていいの?他人の土地なら…」
「うん、事前に調べてみたけどあの辺は国有地で私有地じゃないみたい」
美紀子の疑念を比呂美はすぐさま否定した。
「なるほど」
「国有地で良かったわ。あそこ以外の筍じゃ何の意味もないから」
「思い出の場所か…ご馳走様」
「何々?聞きたいな」
比呂美たちの会話を聞いていたのか真由が身を乗り出してきた。
「そ、それよりもさ…プレゼントだけど」
「うん、そうだね。早めにやっておこうか。じゃあ皆…」
比呂美が言いかけた言葉を最後まで聞かないうちに朋与は立ち上がった。だがそんな朋与を比呂美は制止する。
「ちょっと待って!」
「何?」
疑念を見せる朋与。比呂美は立ち上がると咳払いをして大き目の声を出した。
「えーっ、これから眞一郎君へのプレゼントを出してもらうのですが。女子のプレゼントは全部私が中を確認させてもらいます」
比呂美の言葉に眞一郎は飲みかけていたジュースを噴き出す。周りの人たちもまた呆然としていた。
「それはちょっと…」
朋与の言葉に比呂美は首を傾げる。
「どうして?人の男に色目を使うのと同義のプレゼントは恋人としては受け取り拒否したいんだけど。それとも何?実際に色目を使ってるわけ?」
朋与は困ったような顔で眞一郎を見た。眞一郎は少し困惑した顔を見せながらも同意を示す。
「比呂美がそうしたいなら…俺はかまわないけど」
「うーん、反論のある人いる?」
朋与の言葉に美紀子が手を上げる。
「別に検閲とか構わないけどさ、女子に対してやるなら男子にもやるべきね。なんか不公平」
「そうね、じゃあ男子のも検閲しましょう」
美紀子の言葉に同意を見せる比呂美。そうして一同は渋々ながら鞄などを開き始めた。

「じゃあ、最初は…あさみから」
「ええ!?あたし?なんで?」
理解不能と言った顔を見せるあさみだったが、周りにいる人間は皆同じ考えに至ったと言う。ようするに彼女が色目を使う一番の容疑者なのだと。
「しかたないな」
そういいながらあさみは変な形につつまれたプレゼントを比呂美に手渡した。比呂美は無言でラッピングを解いていく。
「はねぼうき…」
そう呟いた比呂美をあさみは緊張の面持ちで見つめる。比呂美はあさみを鋭い目で睨み付けると目を閉じてまた呟いた。
「オーケイ。これなら…むかつくけど」
(むかつくんだ!)
あさみの心の叫びが届いたのかは不明だ。比呂美は手にしたはねぼうきを眞一郎へと渡す。眞一郎はあさみにお礼の言葉を掛けた。
「じゃあ、次は愛ちゃん…っていないのか」
周りを見渡す比呂美に三代吉が手を上げて答える。
「愛ちゃんはお店を閉めるわけにはいかないって…プレゼントは俺が預かっているよ」
「じゃあ二人分まとめて見せてもらうわ」
そして彼は二つの包みを比呂美に重ねて渡した。比呂美はまず小さい包みを解いていく。
「トランプ…」
少し考え事をしているような比呂美に三代吉は尋ねる。
「何か意味があるのか?」
「謝罪…かな?うん、これは大丈夫ね」
そう言うと比呂美はトランプを眞一郎に手渡す。そして今度は大き目の包みを開く。
「スキン?しかもグロス…」
比呂美の言葉に周りの緊張の空気が流れる。皆が皆、これは駄目だろうと思っていると比呂美はにこやかな顔で三代吉を見る。
「ありがとう…日用的な消耗品はいくらあっても困らないわ」
(日用的な消耗品なんだ!)
心の中での叫ぶ一同。比呂美はそんな空気を全く意に介さず、赤くなって顔を下げている眞一郎へとブツを手渡した。
「それじゃ後は真由から時計回りで行こうか」
そして真由はコンビニだかのビニール袋からプレゼントを取り出した。それはペンギンのぬいぐるみだった。
「クレーンゲームで取ったやつでラッピングとかもしてないけど…どうかな?」
恐る恐る比呂美の顔を見る真由。だが比呂美はにこやかに微笑みつつも冷たい言葉を放つ。
「駄目。NG」
「えぇっ!?どうして?」
「ぬいぐるみっていうのはいわば分身みたいなものよ。あなたの傍にいたいって言う意味だわ」
比呂美の説明に朋与は少し首を傾げる。
「考えすぎじゃないのかなあ」
「とにかく駄目なものは駄目」
「じゃあ、どうしよう。これ。うちはもうぬいぐるみだらけなんだよね」
比呂美に却下されたプレゼントを見つめて悩む真由。
「ほんじゃ、あたしが貰う」
あさみの立候補でその場は収まり、次は美紀子の番だ。美紀子から受け取った小さな包みを解いていく比呂美。
「ハンカチ…これも駄目ね」
「え?駄目なの?」
「身に着けるものは基本的に皆駄目ね。触れ合っていたいって言う意思表示ね」
「やっぱ考えすぎとしか…」
「じゃ、次の人は手を上げて…」
比呂美は美紀子の隣で手を上げた見慣れぬ男子を見つめた後、眞一郎に尋ねた。
「誰?」
「…誰だろ?」
眞一郎の答えに男子は立ち上がって叫ぶ。
「何言ってんだよ!小学2年とかで同じクラスだっただろ!堂木だよ堂木雄政(どうきゆうせい)だよ!大体、湯浅とは今年は同じクラスだろ!」
堂木は一通り叫ぶと座りなおしながら呟く。
「忘れるなよな仲上。小2の夏くらいまでは一緒に遊んでただろ」
「そういえば…悪い。忘れてた」
頭を下げている眞一郎に比呂美は質問をする。
「なんで遊ばなくなったの?」
比呂美の質問に眞一郎と堂木は一瞬言葉を詰まらせる。だが堂木は比呂美に向かって捲し立てた。
「お前だよ!お前、お前らが付き合い始めたから、こいつは俺らとつるまなくなったんだよ!」
堂木は眞一郎を指差している。朋与は怪訝な表情を浮かべた。
「あんたら小学生で付き合っていたの?」
「いや、そういう訳じゃ…」
「一緒に遊んだりはしてたけど…」
眞一郎と比呂美は交際の事実を否定した。。
「は、男と女が二人きりで遊んでたら交際だろ」
「いや、愛ちゃんも一緒の事多かったから。今川焼き屋の子」
眞一郎は事実を追加し堂木の見解を覆そうとする。
「似たようなものだろ。まあしかしオニイワの娘に手を出すとは勇気あるなって当時仲間内で話してたよ」
「オニイワ?」
朋与の疑問に堂木が答える。
「湯浅の父親さ」
「ああ、小学校の教師だって言ってたっけ」
朋与は比呂美から父親について少しは知っているような口ぶりを見せる。
「担任だったとか?」
「いや、俺らのいっこ上の学年の担任。でもその評判は学校中に響いてたな」
美紀子の質問にまた堂木が答える。
「そんなに厳しいんだ」
美紀子の感想に眞一郎や比呂美、そして堂木は深く頷いた。さらに参加者のうち何人かも頷いている。
「そういや5年生になってからお前ら一緒のとこ見なくなったけど…オニイワが原因なのか?」
ふいに堂木が出した質問に比呂美は遠い目をしながら答えた。
「うん、特定の男子一人と遊んだりするのはもう駄目だって…高校卒業まで禁止だって言われて…」
「え?そうだったんだ…」
眞一郎は呆けた様に比呂美を見つめる。
「あれ?知らなかった?」
「いや、初耳だよ。何か嫌われるようなことしちゃったのかと思ってた」
「愛ちゃんから何も聞いてない?」
「いや?」
「…やっぱり豆狸ね…」
比呂美は何か考え込んだような顔を見せて呟いた。
「しかし中学の頃に告白を断るのに使ってた言い訳…あれ本当だったのね」
「その後は居候の身でとても男女交際としかている余裕はないっていう言い訳に変わったのよね」
朋与と美紀子が出した事例はすでに過去のものである事を念のために比呂美は告げる。
「でもまあもう言い訳とかもしなくても良くなったからね。売約済みだし」
彼女たちの話も一段落したようなので堂木は気を取り直して手荷物を漁りだした。
「じゃ、そろそろ俺のプレゼントも見てくれよ」
「あ、ごめん。忘れかけてたわ」
比呂美は堂木が差し出した物を受け取る。
「キューブパズル?」
「あれ?何か思い出しそうな…」
眞一郎の脳裏に何かが浮かびそうになる。堂木はその何かをはっきりと告げる事にした。
「お前らが仲良くなった後の事だよ。俺が親父の部屋で見つけたパズルをこっそり学校に持って行ったとき、お前触りたがったよな。でも俺は貸してやらなかった。俺らより女を選んだお前を毛嫌いしてたんだ。ガキだったよな。本当。今ならわかるよ。男友達よりも女のほうが大切だって。悪かったな。仲上」
眞一郎は比呂美からキューブパズルを受け取りながら答える。
「ありがとうな。そういえば5年生の頃ちょっと人間不信っぽくなってたな。比呂美には嫌われるし、昔の友達も冷たくなってるし」
「そうだったんだ…ちゃんと自分から言えば良かった」
そういえば昔は眞一郎にも友達は沢山いたような気がするなと比呂美は思い出す。どうやら今の眞一郎に友達が少ない原因の一端は自分にあるようだと比呂美は感じた。
「うん、これは当然Okね」
そして残りの人たちのプレゼントの閲覧に入る。その後、おおよそ終わったと思われる時点で駄目出しに追加されたものはマグカップだけだった。それ以外はすべてセーフとなっている。そして最後となる朋与が文鎮を出してきた。
「文鎮って…」
「え。記念品って言ったら文鎮でしょ?」
「なんだかなあ」
当然これも大丈夫で、プレゼント検閲は終了した。ちなみにプレゼントを用意して来た人は6割位で、比呂美のロールケーキは検閲に通った人しか食べれなかった。ケーキの分量が少なかったせいで眞一郎もこの日は比呂美のケーキにありつけなかった。まあ、これは誕生日の当日にはもっとちゃんとしたケーキが食べられるのだから今日は別にいいだろうと眞一郎自身が辞退したの為なのだが。

「で、あんたのプレゼントは?」
朋与の言葉に目を丸くする比呂美。
「そうよね。他人のプレゼントを見てとかするんだから、私たちも見たいわよね」
口を挟んでくる美紀子に暫く考え込んだ比呂美だったがやがて立ち上がって答えた。
「いいわ、持ってくるから」
そういうと比呂美は一旦花見の会場を離れる事にした。

「ふーっすっきりした」
「長かったな。どこまで行ってきた?」
靴を脱いでレジャーシートに座り込んだ眞一郎に三代吉が尋ねる。
「学校の近くの公園。この辺で他にトイレあったか?」
「いや、どうだろ」
首を振る三代吉。眞一郎は辺りを見渡す。だが無駄話に興じる人だかりの中に彼女の姿を見出すことは出来なかった。
「比呂美はまだ戻ってないのか?」
「そういや、遅いわね」
そういうと朋与は携帯を取り出す。比呂美を指定して発信をかけると微かに着信音が聞こえた。
「あれ?近く?」
朋与が立ち上がって音の出所を探すと、曲がり角から比呂美が姿を現した。
「あれ?」
朋与が驚いたのも無理はない。比呂美は銀色の自転車に乗っていたのだ。やがて比呂美は皆の傍まで来ると自転車を止めて降りる。朋与は靴を履きレジャーシートから外に出る。周りの人たちも会話をとぎらせて比呂美と自転車を見つめた。
「どうしたの?それ?」
朋与は比呂美の持ってきた自転車をまじまじと見る。普通の自転車とは違いサドルのついた縦に伸びるフレームのすぐ後ろに何かが付いている。
「何これ?」
「バッテリーよ」
朋与の疑問に比呂美がすぐさま答える。どうやら電動アシスト付の自転車のようだ。
「眞一郎君、来て」
そして比呂美は眞一郎を呼び出す。靴を履き比呂美の下に向かう眞一郎。
「ひょっとして…」
「そう、これが私からのプレゼント」
「ええっ!!!」
比呂美の言葉に驚く一同。無理もない。高校生の誕生日プレゼントとしては正直高額すぎるものだ。
「それって流石に高すぎない?」
朋与の言葉に比呂美は左手の指輪を見ながら呟いた。
「そう?まあ、ちょっと高めかとは思ったけど」
(麻痺してる…)
その場にいるもの全てがまた同じ考えに至った。下手に貴金属を貰ったから金銭感覚がおかしくなっているのだと。
「自転車ならちょっと遠目の場所まで気軽に出かけられるでしょ?」
比呂美はそんな空気を読まずに眞一郎に語りかける。確かに電車は一時間に一本が当たり前の田舎においては自転車は有効な交通手段と言えるだろう。眞一郎にも比呂美の意見は一応理解出来る。
「でもそれなら電動みたいな高価なものじゃなくて安い自転車二台買ったほうが…」
「何言ってるの?二人乗りの方がいいじゃない」
眞一郎の出した代案は即刻比呂美に却下された。
「さ、乗ってみて」
比呂美の言葉に頷いた眞一郎は早速自転車に跨る。
「椅子の高さもちょうどいいな」
「さっき合わせておいたの」
眞一郎は比呂美から電源スイッチ等の説明を受けると試しに漕いでみた。
「おお、軽く漕ぐだけで進むぞ」
ちょっと感動する眞一郎に比呂美が甘い声を出した。
「じゃあ、今度は私を後ろに乗せて♪」
「おお」
眞一郎が一旦自転車を止めると比呂美が荷台に女座りで腰掛ける。既に荷台には座布団が括り付けてあった。
「よし、ちゃんとつかまってろよ」
「うん」
そういうと比呂美はぎゅっと眞一郎を抱きしめた。眞一郎の背中に比呂美の柔らかな膨らみが当たる。それは交際開始から大きな成長を遂げつつあるモノだった。
「ちょ、比呂美、胸がさ…」
「何恥ずかしがってるのよ。彼氏の背中に胸を押し付けるのが恋人同士の二人乗りの醍醐味でしょう?」
困惑する眞一郎。何かが間違っていると比呂美を除く全員が感じた。
「大体お前、下着はどうしたんだ」
「うん、ブラは外して来た」
比呂美の言葉にどよめきが走る。
「…いやはや比呂美さんにはもうお手上げですな」
「本当に…」
朋与の溜息に美紀子が同意する。そして朋与はふと沸いた疑問を口にしてみる。
「ところでさ、4番の後ろでもそんなことやってたわけ?」
比呂美は気分を害したように答える。
「やめてよ。なんで私が…あんなキザシスコンに」
「キザシスコンって…」
「シスコンだったんだ…」
朋与たちは暴かれた石動純の真の姿に驚きの色を隠せない。比呂美のブラなし発言を受けた眞一郎はまず比呂美のアパートまで行ってちゃんとブラをつけさせる事にした。そして胸の感触に感じながらの二人乗りが始まる。

その後、眞一郎と比呂美が二人乗りで花見場所まで戻ってくると同時に希望者による電動アシスト自転車の試乗会が始まった。乗った人は口々に軽く漕ぐだけで進むのに驚いた事を繰り返すのだった。

花見兼誕生会の開始から既に2時間は優にたっただろう。何がきっかけだったのか参加者たちは歌合戦を始めていた。少し疲れたのだろうか、眞一郎はそれを見ながらうとうとと船を漕ぎ出している。比呂美はそんな眞一郎に気づくと自分の腿を叩く。
「いいよ」
眞一郎は頷くと比呂美の膝枕に頭を預け、そのまま眠ってしまった。比呂美はそんな眞一郎を幸せそうに見つめる。すると舞い降りてきた桜の花が比呂美が手に持っている紙コップに入った。比呂美は桜の木を見上げる。柔らかな風が流れ桜の花びらが幾つか宙を舞っていた。
舞い踊る桜をじっと見つめ続けた比呂美はお花見というのもいいかもしれないと思い始めるのだった。

そして菓子や食べ物、飲み物も無くなってきた頃、朋与がちょっと疲れ気味の顔を見せながら口を開いた。
「じゃあ、そろそろお開きにしようか」
朋与の言葉に納得した者もしない者も両方いたようだが、騒ぎ足りない人は別件で騒げば良いだけの事。皆は帰り支度を始める。比呂美も眞一郎を揺り起こした。
「眞一郎君、起きて」
眞一郎は目をこすると背伸びと大きなあくびを見せた。
「うん?もう終わりか?」
「うん、私たちも荷物片付けよう」
比呂美の言葉に眞一郎はプレゼントをかき集めだす。その時眞一郎はまだ開いていないプレゼントがあるのに気づいた。
「あれ?」
眞一郎が小さなプレゼントの包みを開いているのを訝しげな顔で見つめる比呂美。彼女にも何故未開封の物が残っているのか理解できないようだ。眞一郎が包みを開くとそれは小さな赤い木の実がなっている木の小枝だった。だが木の実は既に干乾びていて一部変色している。
「グミ?秋グミよね。それってさ…」
比呂美の言葉も終わらないうちに眞一郎は木の実を口の中に放り込んだ。
「ちょ、眞一郎君?」
眞一郎は比呂美を見つめるとしかめっ面を見せた。
「不味い」
比呂美はそんな眞一郎を黙って見つめる。心なしか眞一郎はしかめっ面をしながら笑っているようだと比呂美は思った。
「全く…あの鳥電波め。いつの間に…」
だがそんな言葉とは裏腹に比呂美もまた笑顔を見せていた。柔らかな日差しと暖かな風。そして桜の花びらの舞う…そんな春の日の出来事。

ちなみにシーズンを大幅に過ぎた秋グミの実を食べた眞一郎はその後、ひどい下痢に苛まれたと言う。
比呂美「めでたしめでたし♪」
眞一郎「め、めでたくなんかないぞ!!ううう…」





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あとがき:

自転車の二人乗りは法律で禁止された行為です。絶対に真似をしないでください。よしこれで大丈夫。俺に責任は降りかからないぞ。

今回の比呂美の検閲は書いた俺自身が考えすぎだと思っている位です。実際に異性の友達にプレゼントを贈るときの参考にはなりません。念のため。

一応言っておきますが眞一郎の誕生日4月23日は当方が勝手に決めた事です。公式には誕生日の設定は明らかにされていません。後、比呂美の父親が教師というのも俺の脳内妄想です。でも酒蔵をやっていたというのよりは説得力があると思います。

脳内にある段階では5万円位の電動アシスト自転車を考えていましたが…書いている内に、電動って二人乗り出来るのか?という疑問が沸いてきたので調べようとしましたが、全然情報が出てこない。最終的には業務用の電動アシスト自転車にすれば二人乗りくらいは出来るだろうと思い込む事にしました。で、これです。

PAS GEAR | ヤマハ発動機製品サイト
http://www.yamaha-motor.jp/pas/lineup/pas-gear/index.html
YAMAHA/ヤマハ 電動アシスト自転車 PAS GEAR 26型 (PV26B) 【20 サイクルショップ ライフ - Yahoo!ショッピング
http://store.shopping.yahoo.co.jp/cycle-life/yh-0811pz26b.html

12万越えてます。指輪が15万くらいを想定しているのに…これはいくらなんでも高すぎですね。でも他に選択肢はなさそうです。仕方ありません。あ、比呂美には親の残した遺産が殆ど手付かずで残っているので特別な場合に対する出費はそこから出しているというつもりです。基本的な生活費は仲上家持ちで。まあアパートの家具とかそろえるのに貯金が全くないなんて事はない筈だしね。

あと高岡市西田地区の筍を使ったお刺身ですが、一般家庭が食べる事がどれくらいあるのか不明です。とりあえず殆ど食べる事はないと考えました。そもそも値段の相場ってネットで調べられないんだよな。

基本的に筍は時間と共にえぐみが増える物で、日の出前に地面に殆ど埋まっている筍を掘り出しすぐに食べるなら刺身に出来るらしいです。さらに竹林の土壌等によって筍本来のえぐみの度合いが違うと言うので、土壌が粘土質の西田の筍はそのえぐみが少ない物って事らしい。ちなみに思い出の竹林の土壌は赤土のつもり…もし粘土質の証拠とかあっても気にしないように。

2009-03-13(Fri)

二年次04月上旬:「縁結びの女神」

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次04月上旬:「縁結びの女神」








今年の桜はいつもより遅くてまだ満開には程遠い。そんな時期、私と眞一郎君は二年生へと進級した。10年間同じクラスでいつづけた二人だったが、今回初めて別のクラスになってしまった。私が思うに多分二人の関係が教師たちの耳にも入ったのだろう。肉体関係のある恋人同士。そんな二人を一緒のクラスにはして置けないと。まあでも、私たちは親公認の婚約者でしかも学校では距離を置いているから、これ以上の事は口出しできないだろう。仲上の名前はここでも強力なのだし。それから、眞一郎君とは別れてしまったものの、朋与や美紀子とは同じクラスのままだ。そしてあさみと真由は眞一郎君と同じクラスになった。まあこれ位は仕方ないだろう。でもただ一つ納得できないことがある。それはこの女と同じクラスだと言うことだ。
「まさか隣の席になるとは思わなかった」
そう言いながらちょっとバツの悪そうな顔を見せるこの女…石動乃絵。私にとってある意味天敵であるこいつと暫く隣にいなければならないなんて。私は深いため息をつくしかなかった。

休み時間中に朋与と無駄話をしていた私がふと廊下の異変に気づいた。ドアの横から数名の男子がちらちらとこちらを見ていたのだ。彼らは私と目を合わせると決まりが悪そうな顔ですごすごと去っていく。
「あーっ一年生か。またそんな時期なんだね」
朋与が懐かしそうな呆れたような顔を見せる。困ったものねと私はため息をつく。そう、中学に入った時も上級生に観察されたし、進級後も新一年にチェックされた。そしてそれは高校生になっても同じだった。世間のいうところの美少女とされるケースの多い私には毎度のことだ。
「でも今年はいないかと思ってた。もう恋人もいるんだし」
「いやいや、純粋な観賞用ならお手つきでも構わないと」
朋与の馬鹿な返答にどう答えたものか考えているとまた廊下から男子が覗き込んでいるのに気づいた。またかと思いつつも私はその男子を睨みつけた。だが私と目を合わせても彼は撤退していかなかった。どうも私を見ていないようだ。私が彼の視線を追っていくとそこには友達らしき二人と会話をしている石動乃絵の姿があった。あの女と友達になれる人間が眞一郎君以外にもいたとは思わなかったが、とりあえず今は関係ないことだ。
「去年も彼女をチェックしてる男はいたらしいよ」
朋与の情報網は色々と侮れない。確かに黙っていればあの女も十分に美少女だろう。遠くから見ている分には電波な性格にも気づかないわけだし。そうして私達が石動乃絵を見ているとやがて彼女はこちらに気づいた。いや私達越しにドアの方を見ているようだ。私達はすぐにドアの方に振り返るもそこに例の男子の姿は無かった。多分彼女と目が合ったために退散したのだろう。私たちが再び彼女を見ているとちょっと困ったような複雑な表情をしていた。正直ちょっと気にはなったがすぐにチャイムがなったため私は次の授業の用意をすることにした。

「お久しぶりです先輩」
放課後に私と朋与が部活に行くために更衣室に向かう途中、一年生の女子数名に後ろから声を掛けられた。私たちが振り向くとそこにはかつて麦端中学女子バスケ部で共に汗を流した後輩たちの姿があった。
「加藤に志村に仲本、高木か…元気だった?」
1年ぶりに会う彼女たちは少し背が伸びたような気がする。気のせいかもしれないが。
「はい。また先輩とバスケができるんですね」
「うれしいです」
「今度こそ蛍川を打倒しましょう」
嬉しそうな顔や勇ましい顔、それぞれ違った顔を見せている彼女たち。だがそのとき朋与が不意に疑問を見出す。
「あれ?荒井や碇矢は?」
途端に彼女たちの顔が暗くなる。
「…碇矢は転校しちゃいました。親の仕事の都合で。荒井は事故で暫く入院したらやる気を失くしちゃって…」
「そっか…」
私にもそれはちょっと残念に思えた。表情を見る限り朋与もまた同じような意見らしい。
「そんな事よりも噂聞きましたよ」
「婚約したそうですね」
「おめでとうございます」
話題を変えるための出しにされたような気もするが、ここはちゃんと返しておこう。
「ありがとう」
「二人の馴れ初めとか色々聞きたいです。プロポーズの言葉とかも」
加藤は目を輝かせながら身を乗り出してくる。どう答えたものか私が考えていると朋与が助け舟を出してきた。
「ほらほら、そんなことはこれからゆっくり聞いていけばいいんだから。あんたたちまだ入部届けも出してないんでしょ?早く届けを出してさっさと練習に参加しないと」
「はーい」
4人は朋与の言葉を聞くと残念そうな顔で体育館に向かっていった。

そうして新一年生を加え女子バスケ部の練習が始まったのだが、私たちはある種のやりにくさを感じていた。見学者が無闇に多いのだ。エスカレータ式の学校だから完全新規の入部希望者などそう多くはないはずなのに。見学者の視線は私一人に集中しているような気もする。私が準備運動を終え見学者たちを見渡していると朋与が口を挟んでくる。
「ま、仕方ないんじゃない?唯でさえ我が校のアイドル的存在なのに、さらに高校生の身でありながら親公認の婚約者がいて、しかも玉の輿。相手は去年の麦端祭りで花形をやった二枚目半。これで新一年の注目集めないわけないじゃない」
「二枚目半って…」
だが朋与の言うことにも一理ある。確かに私のような高校生は珍しいだろう。
「珍獣扱いってことね」
私がため息をつくと高岡キャプテンが手を叩いて私たちを急かした。
「ほらほら、私語の前に体を動かす。2年以上はいつものやつ、一年生は走り込みからね」
新一年生はぼやきつつもキャプテンの指示に従い走り出す。私たちもコートの中に入って練習を開始した。

新学期が始まってから何日か経った昼休みの昼食後、私と朋与は今まで同じクラスになった事がなかった人達とも少しぐらいの会話を持つようになっていた。
「あ、やっぱりデートスポットって全然ないんだ」
「うん、田舎町だからね。だからパボーレとかにカップルが集まってくるのよ」
美紀子の質問に私が答えていると鈴木さんが口を挟んできた。
「でも愛しい人と一緒ならどんな場所でも嬉しいとか言うんでしょう?」
「御明察♪」
予想通りの私の返答に鈴木さんは天然パーマを指でいじりながら眼鏡の奥で呆れ顔を見せている。
「でも羨ましいな恋人がいるって」
そう言ったのは車さんだ。少し猿に似ている彼女が恋人を持つには幾つも越えなければならないハードルがありそうだ。
「私も彼氏がいればなーっ。どっかにいい男落っこちてないかな」
「言えてる。で3ヶ月たったら私のものとかね」
朋与の軽口に美紀子が乗ってくる。拾得物の所有権っていうやつだろうな等と考えていると鈴木さんがまた口を挟んできた。
「でもうちの学校って本当にいい男って全然いないわよね。あーっ、素敵な男の子と恋がしたいなぁ」
「何言ってるの?」
不意に私たちの会話に介入してくる嫌な声。間違いない。あいつの声だ。私たちが声の主のほうを振り向くとそこにはやはり石動乃絵の姿があった。友達の二人も傍にいる。どうやら彼女もまた友達と会話をいていたようだ。そして私は彼女を睨み付けた。だが彼女は私の視線を無視して鈴木さんを見つめ続けた。
「な、何よ」
たじろぐ鈴木さん。石動乃絵はまっすぐに彼女を見つめやがて口を開いた。
「嘘は良くないわ」
「嘘?」
私たちには何の事か良くわからない。だが鈴木さんはさらに一歩後ずさる。
「だって貴方、富永君のこと好きでしょ?」
「えぇーっ!?」
石動乃絵の言葉にどよめく一同。近くにいた生徒達にもどよめきが広がる。驚くのも無理はない。太り気味で眼鏡をかけた富永君は下品な事を平気で言う。我がクラスでも指折りのもてなそうな男子だ。私たちは素早く教室内を見渡す。だが幸か不幸か富永君の姿はない。私たちは対象の不在を知ると今度は鈴木さんを見つめた。俯いて暫く体を震わせていた鈴木さんだったが、次第に顔が赤く染まっていく。車さんが恐る恐る鈴木さんの顔を覗き込んだ。
「マジ?」
するとその瞬間鈴木さんは何かを叫びながら教室を飛び出した。私たちが呆気に取られていると、やがて教室に話題の人物の姿が。ハンカチを持っていないのかズボンで手を拭っている富永君に男子生徒数名が駆け寄る。
「おい!お前!」
「なんでお前なんだよ!」
「つーかおかしいだろ!」
「な、なんだよ、お宅たち」
富永君は突然の出来事に戸惑っているようだ。車さんがそんな彼を見ながら呟いた。
「全然気づかなかった。石動さん、よく気づいたわね」
「見てればわかるわよ」
石動乃絵は特に感慨もなく答える。確かにこの女は侮れない。直感だけで生きている節があるような輩だからこそ、誰よりも敏感なのだろう。
「だけどね…」
私が彼女に少しばかり意見しようとするとチャイムが鳴った。
「やば、たしか次の化学は実験だよね」
美紀子の言葉をきっかけに私たちは慌てて授業の用意をすると理科室へと向かった。

翌日になると鈴木さんと富永君は休み時間中に廊下の隅で二人で話をするようになっていた。御手洗いの帰りに私がそんな二人を見つめていると朋与が声を掛けてきた。
「すごいよね石動乃絵」
「そうね」
「桜子さんに聞いたんだけど前にも似たような事あったんだって」
「ふうん」
即席カップルを見ながらそっけなく答える私の顔を朋与が覗き込んできた。
「まだ拘ってるの?もう婚約とかしてるんだし…」
「そういうんじゃないのよ」
そう、私にはわかっている。あの女の凄さは。多分女子のうちで私が一番わかってる事だ。眞一郎君は石動乃絵と出会う事で人として大きく成長出来た。彼自身がそう言っているのだ。彼女が彼をひと回りもふた回りも大きくしたのだ。私は彼を頼るばかりで成長させることなど出来なかった。私に出来ないことを彼女はやってのけたのだ。私は恋愛においては彼女に打ち勝った。でもそれ以外の部分では負けているのだ。女としては勝っていても人として負けている…多分私にとって石動乃絵はずっと天敵のままなのだろう。そんな事を考えながら私は親友と共に教室へと戻った。

私が自分の席があるはずの場所を見るとそこには人だかりが出来ていた。いったい何なのだろう。
「じゃさ、私を好きな男の子っているかな?」
「テニス部の子が貴方をちょくちょく見つめてたわ」
「ええーっ!」
「いいなあ。じゃあさ、私は」
「特に貴方を見ている人は見かけないわ」
「ガーン!」
どうやら人だかりの中心には石動乃絵がいるようだ。しかも人の恋路に口を出しているらしい。やがてチャイムが鳴り人だかりは自分の席へと少しずつ戻っていく。ようやく座れるようになった。私は席につくと授業の用意をしながら口を滑らす。
「あんまり人の恋路をとやかく言うものじゃないわよ」
だがこの女はきょとんと私を見つめてきた。
「なんで?はっきりさせた方がいいでしょ?」
私は彼女の言葉にカチンと来る。
「あんたね…」
だがその時、戸を開く音と共に教師が現れ、私たちの会話はそこで中断された。

翌日、バスケ部の朝練を終えた私と朋与が教室に入ると突然見慣れぬ女子が大声をあげた。
「教えてください!浜田先輩は私のことを見てくれてますか!?」
見慣れぬ女子は新一年生のようだ。椅子に座った石動乃絵に詰め寄っている。よく見ると傍にはバスケ部の加藤の姿もあった。加藤は彼女の友達なのだろうか?心配そうな顔で彼女を見ている。
「浜田君って去年1Aだった人?だったら…演劇部の人…松本さんだっけ?その人のことが好きみたいね」
「そんなあ」
石動乃絵の返答に泣き崩れる彼女。傍では加藤が慰めているようだ。やげて泣いている彼女とそのそばで寄り添う加藤は共に教室を去っていった。そして私は石動乃絵の隣に座りながら呟く。
「後輩を泣かして…あなたは平気なの?」
彼女は暫く私をじっと見つめた後、口を開いた。
「涙が出るって素晴らしい事」
眞一郎君から石動乃絵の涙について少しだけ聞いたことがある。なんでも涙が流せないとか…そしてきっとこれからは涙を流せる様になる筈だと。詳しいことは教えてくれなかったが、この女には他人を泣かせる事について罪悪感がないのはハッキリした。彼女は世間一般と根本的な部分に食い違いがある。これ以上の会話は無意味だろう。会話のキャッチボールを諦めた私は教科書などを鞄から取り出すことにした。

「石動乃絵っている!?」
昼休み、私がお弁当の中のイモの煮っ転がしを箸で摘んでいると見知らぬ女子が教室に入るなり大声をあげた。私と朋与が石動乃絵のいる筈の彼女の友達の席の辺りを見つめると、彼女はから揚げを摘んだ箸を真上に掲げていた。
「あんたね」
そういうと女生徒は彼女にずんずんと歩み寄る。
「松本さんね、演劇部の」
「わかっているなら話は早いわ!」
松本さんは石動乃絵の間近まで来ると彼女を睨みつける。だが石動乃絵は意に介さないかのようにから揚げを美味しそうに頬張った。
「弁当なんて食べてる場合!?」
松本さんの糾弾にも平気な顔をした石動乃絵は普通にから揚げを租借して飲み込んだ後、口を開いた。
「で、何の用なの?」
「とぼけんじゃないわよ!」
いつの間にか教室中が二人に視線を集中させている。松本さんは一呼吸空けた後、一気に捲し立てた。
「1Dの南原よ!あんたあの娘に変な事吹き込んだでしょ!お陰で大変だったんだから!好きな人はいますかとか、どういう人が好みですかとか、浜田君をどう思いますかとか、浜田君だけは好きにならないでくださいとか…五月蝿いったらありゃしない!!」
「ハッキリ言い返せばいいじゃない。毎朝一緒に登校する子が好きですって」
松本さんはこの意見に戸惑いの表情を浮かべたようだ。
「な、何を言ってるの?内村は単なる近所の部の後輩で…大体彼女は女の子でしょ!」
「…でも好きなんでしょ?」
私も思わず箸から芋を落としてしまう。そしてこの言葉と共に教室に静寂が訪れ、やがて松本さんの顔がみるみる青くなっていく。そして彼女は崩れるように倒れた。
「ちょ、保健委員!!早く!!」
教室中がざわめく中、私と石動乃絵の視線が重なる。私の睨み顔を見た彼女はちょっとバツの悪そうな顔を見せてきた。

「ちょっと時間いいかしら」
私はホームルームの後、下校支度を始めた隣の席の生徒に声を掛けた。石動乃絵が後ろの方にいる友人二人を見つめると彼女たちも頷いてOKの返事を返す。
「少しなら」
「…あなたが凄いっていうのはもう皆理解したわ。だからもう他人の恋路にちょっかいは掛けないようにすべきよ」
私は石動乃絵を睨みながら穏やかな口調を心がけた。
「先に部活行っとく。キャプテンには遅れるって言っとくわ」
鞄を抱えた朋与はそう言うと教室を後にした。そして石動乃絵は私の言葉が理解できないのか反論してきた。
「別に私は凄いって思われたいわけじゃないわ」
「そういう問題じゃない!!」
私は思わず声をあげてしまう。一度深呼吸して心を落ち着けた後、私はゆっくりと口を開いた。
「人にはね…隠しておきたい想いだってある。人に知られたら困る真実だってあるの。人間には嘘が必要なことだってある。真実を暴くことが常に正しい訳じゃない!あなたのやってることは偽善の自己満足でしかないわ!!」
また私は捲し立てるように叫んでしまった。どうしてもこの女相手では喧嘩腰になってしまう。天敵である以上仕方が無いのかも知れない。さあどんな反論を返してくるの?私が彼女の反撃を待っていると、やがて目の前にいる女は私の意見を受け入れる言葉を紡ぎ出して来た。
「そうね。あなたの言うとおりだわ。真実は時として必要以上に人を傷つけてしまう」
そう言うと彼女は席を立って鞄を背負い廊下で待つ友人たちの元に向かった。以外にあっけない決着に少し拍子抜けした私だったが、これでもう大丈夫だと安心すると荷物を持って更衣室へと向かうのだった。

翌日、登校した私が教室に入るとまたもや石動乃絵の元に人だかりが出来ていた。
「安心して、清水君も原田さんのこと好きだから」
「や、やったーっ!!」
「いいなあ」
この女はまだ懲りていない。私は更なる糾弾をしようとこの馬鹿女に歩み寄る。
「あんたねぇ!昨日の今日で!!」
「わかってるわ。だからもう両想いの時しか指摘しない。もちろん聞いてきた人に関するものだけ」
「わかってない!!幾ら両想いでも!!」
「両想いなのに通じてない状態は本人たちだけじゃなく周りも不幸にする。わかるでしょ?」
私は石動乃絵の言葉に拳を震わせる。
「…私のせいだって言いたいの?」
「そうじゃない。あれは不幸な事故。でも事故は努力次第で防げる筈」
この女は妙に優しい目で私を見つめてくる。そして更に言葉を続けた。
「私はもう不幸な事故は見たくないから」
私は彼女の言葉に何も反論出来なかった。わかっている。この女の言うことは正しい。間違っているのは私のほうだ。私だってあんな思いは二度としたくないし誰にもさせたくない。そして私が何も言い返さないのを確認すると石動乃絵はまた恋愛相談に戻る。
「うーん、残念だけど石橋君の両想いの相手は木梨さんじゃないの。え?誰が好きかって?それは私からは言えない事だわ」
私は深いため息をつくと彼女の行為を受入れるしかない事を自覚するのだった。

その後、石動乃絵によって結ばれたカップル達により彼女は縁結びの女神などとご大層な呼び名を持つことになるのだが、それはまだ先の話。




###########

あとがき

というわけで考察も終わって今後は二次創作が中心になるとか言ったけど別名儀の方もやらなかんのでどの位のペースになることやら。

今回の話でのゲストの名前は適当に決めたので特に他意はありません。どうせなら現実とのリンクにこだわるべきかもしれませんが、そうすると色々考えすぎて名前自体が決められなくなりそうだから適当で済ますことにしました。

後、ドラマCDの乃絵とその友人については一応この二次創作連作でも取り入れることにしました。が、桜子も日登美も乃絵以上に出番がないので正直名前以外は使わないも同じになると思います。
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