--------(--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2009-04-25(Sat)

二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(後編)

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(後編)
           この話は前編中編からのつづきになります。







(9)アルコールによる認識力低下

酔いが回ってきたのだろう。眞一郎は真っ赤な顔をしている。酒蔵の息子にしては少々弱めという気がする。まだ3杯位しか飲んでない筈なのに。正直飲み比べとか出来るかもと期待してたのだが読みが外れたようだ。そんなことを考えながら俺はコップの中の酒を飲み干した。
「三代吉はすごいね」
愛ちゃんは空のコップを受け取りつつ素直に俺への感心を示した。愛ちゃんが下戸なのはちょっと残念だったが、湯浅さんみたいに飲むだけ飲んですぐに寝てしまうよりはいいだろう。その愛ちゃんは酒瓶をほぼ垂直に立てて最後の一滴までコップに注ぎ込んだ。そろそろ潮時かも知れない。愛ちゃんから最後の酒を渡された俺がそう感じていると、眞一郎が顔を仰ぐ手をとめて立ち上がった。
「ちょっと夜風に当たってくるわ」
「あ、俺も付き合うわ」
俺はそういうと酒を一気に飲み干した。
「お前は全然酔ってないように見えるんだが」
「ちょっと散歩もしたいしな」
「なら、私もつきあうよ」
愛ちゃんも俺たちに同行する意を示した。俺たちは立ち上がると部屋を後にしようとする。その時愛ちゃんが後ろを振り向いて尋ねた。
「比呂美ちゃんはどうするの?」
眞一郎は少し考えた後で答えを出す。
「放っておこう。寝かせておいたほうがいいと思うから」
まあ旅館の中だし危ないような目にあうこともないだろう。そして俺たちは旅館の外へと繰り出すことにする。
「何か飲みたいな。コンビニとか近くあるか?」
「どうだろ?それより秘宝館とかやってないかな」
「お前な…」
「秘宝館って何?」
そんな無駄話をしながら俺は袖の下をまさぐる。だがそこには期待したものは存在しなかった。
「財布ないわ。あったほうがいいよな。取ってくるから先いっててくれよ」
「おう」
「早く来てね」
眞一郎も愛ちゃんもちゃんと財布を持ってきているようだ。用意がいいというかなんというか。俺は急いで部屋まで戻ることにする。

部屋では相変わらず湯浅さんが横になって寝息を立てていた。俺は彼女を起こさないように忍び足で進むと半腰で自分の荷物を漁る。そして俺は財布を見つけると同時に背後に人の気配を感じた。振り返ろうと思うや否や俺の尻に何かが押し付けられる。
「な!?」
後ろを見て愕然とする。そこには俺の尻に頬擦りをする湯浅さんの姿があった。
「しんひちろうくん…ようやくふらりっきりになれらわね」
俺は思わずしゃがんだままダッシュで後ずさってしまう。どうやら彼女は俺を眞一郎と間違えているようだ。
「ち、ちが…」
四つん這いになっている彼女は胸元から深い谷間を覗かせている。生唾を飲み込む俺はまともに声を出すこともできない。湯浅さんは四つん這いのままで俺に歩み寄ってきた。俺も後ずさろうとするがすでに壁際で後ろに下がることもできない。
「ろうしらの?あ、そうゆうプレイ?いいわ、おにぇいさんがおしえれあれる」
湯浅さんはくすくすと笑いながら俺に這いよってくる。俺は動くことも出来ずに彼女の接近を許してしまう。甘い吐息と石鹸の匂い。そして湯浅さんは俺の浴衣を肌蹴させると俺の胸から腹へと右手を滑らせていき、そしてトランクスを下にずらす。するとすでに元気一杯になっている俺の息子が姿をさらけ出した。
「あれ、ひつもよりおおきいよ?」
そういうと彼女は俺の竿をしごいた。うまい。うますぎる。男のツボの何たるかをちゃんと理解している。これが経験者というものなのか。絶妙なカリへの刺激が俺に更なる興奮を呼び起こす。そして彼女は手を止めると俺のモノをじっと見つめたかと思うとやがてそれに顔を近づける。
「ちょ、ちょっ!」
制止を求める俺の声が耳に入らないのだろうか、彼女は口を開くと俺のモノを咥え込んでしまう。そして舌を絡めつつも頭を動かしだす。すごい。すごすぎる。先ほどの手コキもうまかったが、今度の口淫はそれよりもはるかにすごい。カリが唇の刺激を通り過ぎたかと思うと今度は舌が刺激してくる。こんなすごいのを眞一郎はしょっちゅう味わっているのか。徐々に限界が近づいてくる俺の竿。すると彼女の舌は今度はカリではなく先端へとターゲットを変えてくる。先っちょの割れ目を舌先でなぞり上げてきた。そのあまりの快感に俺は耐えることが出来なくなった。そしてついに爆発。勢い良く飛び出していく白液の脈動を彼女は口の中に受け止めていく。いや喉が動いているのが見える。それはつまり…まるで頭の中が真っ白になったようだ。放心状態の俺は今一考えが纏らない。俺は今何をしたんだ?どうすればいいんだ?すると湯浅さんは俺の陰茎から口を離すとゆっくりと立ち上がった。俺は呆然としながら彼女を見上げた。
「味がちらーう!!」
「へ?」
今の俺には彼女が何を言っているのか理解できない。
「何者らー!しょうらいをあらわせー!」
そういって歩み寄ろうと大股で足を踏み出す彼女だったが、あまりに力を入れすぎたのかちょうどそこにあった座布団に足を滑らせてすっころんでしまった。
「きゃ!」
そして動かなくなった彼女。俺はトランクスを上げると立ち上がって彼女を覗きこんだ。どうやら彼女はまた眠ってしまったようだ。すやすやと寝息をたてている。俺は深いため息をつくと財布を拾って逃げるようにその場を後にした。何もなかった。何もなかったんだと自分に言い聞かせながら。


(10)アセトアルデヒド分解の未完了

「ふぁーわぁ」
我ながら大げさな欠伸だと思いながらぼんやりとした目で辺りを見渡すとそこは見慣れぬ部屋だった。
眞一郎君と野伏君らしき話し声が襖越しに聞こえてくる。私は目をこすって意識を目覚めさせようと試みた。そう、ここは旅館の中だ。そして今は温泉旅行の最中。結局、昨日は愛ちゃんと野伏君は最後までたどり着けたのだろうか?あれ、そういえば昨日は夕食の後ってどうなったんだっけ?私は夕べのことを思い出そうとしてみる。だがその時頭をじわじわ締め付けてくるような痛みを感じた。
「いたたた」
「どうしたの?二日酔い?」
愛ちゃんがタオルを畳む手を止め尋ねてくる。気がつかなかったが愛ちゃんは私のすぐ近くにいたのだ。
「なんか頭が痛くて…」
「それが二日酔いなのよ。でも流石に薬はもって来てないからなあ。お酒飲むって知ってたら事前に用意しておいたのに…」
愛ちゃんは心配そうな顔で私を覗き込んでくる。私は心配しないでと愛ちゃんに返そうとするもまた頭に痛みを感じる。
「いたた」
私が頭を抱えるように抑えていると眞一郎君が襖越しに呼びかけてきた。
「比呂美?起きたのか?」
「頭痛い…」
「比呂美ちゃん二日酔いみたいよ。もうすぐ朝食だから、そしたら魚介類を優先的に食べればいいよ」
愛ちゃんは眞一郎への状況説明と共になにやらアドバイスらしきものを私に提示してくる。
「魚介類で治るのか?」
「うん、結構きくらしいよ?父さんはそう言ってた」
眞一郎君の確認に肯定を返す愛ちゃん。
「うん、わかった」
私は愛ちゃんの助言に従うことにする。
「無理はするなよ」
「大丈夫」
眞一郎君に心配ないと返しつつ布団を出て自分の鞄を開く。
「あれ?」
コンタクトレンズがケースの中に入ってない。ふいに私の脳裏に昨日の卓球の後の出来事が蘇る。ずれたコンタクトを直そうとして落としてしまい床を探る私に気づいた愛ちゃんが心配そうに近づいてきて…パリン。レンズは愛ちゃんのスリッパの下で昇天してしまったのだ。すっかり忘れていた。これもきっと二日酔いの頭痛のせいだろう。私は眼鏡のケースを開いて中身の存在を確かめる。こちらは大丈夫。安心すると私は眼鏡ケースをそのまま鞄の中に戻す。眼鏡を掛けた顔は眞一郎君にしか見せたくはないのだ。少し視界のピントが悪くなるがノートをとる訳でもないからかまわないだろう。
「ん?」
眼鏡をしまった私は何か引っかかりを覚える。だが何に対してなのかわからない。そんなふうに悩んでいる間に愛ちゃんは私の布団を畳んでいく。そして隣からまた眞一郎君の声が聞こえた。
「おーい、朝食来たぞ」
どうやら隣の部屋に4人分の朝食が届いたようだ。とりあえず考えるのは後にしてもいいだろう。今は先に朝食で魚介類を食べることが優先だ。頭痛であまり食欲はわかないのだが。

顔を洗い浴衣から私服に着替えて襖を開き朝食の席に着く。すでに他の皆は席について私を待っていたようだ。
「ごめんね。遅くなって」
「よし、じゃ食べようか」
「いただきます」
そして一同は一斉に箸を動かし始める。眞一郎君はガツガツと勢いよく朝食をかきこんでいく。男の子は食べる量が多いから私が残すことになったら眞一郎君に食べてもらおう。そう思いながら魚介類を口にする私。やはり余り食欲が湧かない。躊躇いながら箸を動かす私は同じように躊躇っている野伏君に気がつく。彼も二日酔いなのだろうか?あまり食が進んでいないようだ。昨日の昼にかなりの大食いをみせていた彼らしくない。私が見詰めているのに気がついたのか野伏君はは私から視線を逸らす。何か不自然だ。私はまた何か引っ掛かりを感じる。だがそれが何に対してなのかはやはりわからない。まあ考え事は頭痛が和らいでからにしてもいいだろう。私はまた箸を動かしだす。
「美味しいね」
「そうだな」
愛ちゃんの朝食に対する賛辞に同意を見せる眞一郎君。だが野伏君は相変わらず黙ったまま黙々と食事を続けている。
「比呂美もそう思うだろ?」
眞一郎君が私に同意を求めてくる。だが頭痛のせいだろうか余り美味しく感じられない。
「二日酔いのせいで味わっている余裕ない…」
「…そうか。残念だな。早く治るといいな」
眞一郎君は私を優しく見つめてくる。彼に心配かけないためにも早く治さないと。
「三代吉はどうだ?旨いか?」
野伏君は眞一郎君の急な振りにも気づかずに食事を続けている。
「三代吉?」
そして我に返ったのだろうか野伏君は慌てた様に返答する。
「あ、そ、そうだな。旨いよ。この旅館は一味違うって評判なんだよ。そうそう味がちがう…」
そこまで言って固まった野伏君。そして私を一瞬だけ見つめるとすぐに目を逸らした。どうしたのだろうか。何かあったのだろうか。
(味が違う?)
野伏君の言葉が私の頭の中でリフレインする。そして彼の挙動不審。何かが結びつきそうだ。私は昨日の出来事を思い出そうと試みる。夕食でお酒を飲んで酔っ払って…それからどうしたっけ?そうそう、そういえばいつの間にか眞一郎君と二人っきりになってて…口でしてあげて、でも味が違って…
「あああああ!!!!」
思わず立ち上がって大声で叫んでしまう。
「どうした比呂美?」
「気分悪いの?」
全てが一気に繋がってしまった。私はきっと眞一郎君と間違えて野伏君のモノを…野伏君は私から目を背けたまま。心なしか体が震えているようだ。間違いない。私は野伏君の放ったものを…
「うぇっ」
唐突に猛烈な吐き気をもよおした私は縁側の所にある洗面台へと駆け寄る。
「うげぇぇぇぇ」
そして食べたものを全て洗面台に戻してしまう。
「どうした!」
「比呂美ちゃん!」
洗面台に寄りかかってげほげほとむせる私に慌てて駆け寄ってくる二人。私は恐る恐る二人を見つめる。
「気分悪いのか?」
「お医者さん呼ぼうか?」
口々に私への心配を見せる眞一郎君と愛ちゃん。私はとんでもないことをしてしまった。これは眞一郎君への裏切りでもあり、愛ちゃんと野伏君に対しても裏切りだ。私は取り返しのつかない過ちを犯してしまったのだ。いつの間にか滲んでいた涙が頬を流れていく。
「比呂美…」
「うぁああああぁん」
私はついに抑えきれなくなって大声で泣き始めてしまう。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
眞一郎君は私の手を握り締めてきた。
「何があったんだ?」
「ごめんなさい眞一郎君。ごめんなさい愛ちゃん。ごめんなさい野伏君…私、なんてことを…」
私の涙は止め処なく溢れて来る。私は涙とともに贖罪の言葉を吐き出す事しか出来なかった。


(11)涙腺からの分泌液

大泣きしながらごめんなさいを繰り返すだけの比呂美ちゃん。何があったというのだろう?彼女のこんな姿は見たことがない。小学校5年の春、私より早く初潮を迎えた比呂美ちゃんが父親に特定の男子と私的に関わる事を禁じられたことについて相談しに私の元に来た時でも、泣きそうな顔をしてはいたものの結局最後まで泣くことはなかった。私はずっと彼女の涙を見たことが無かったのだ。初めて見る彼女の泣き顔に私は酷く戸惑ってしまっている。それに一向に説明がないので正直要領を得ない。そんな中、三代吉は躊躇いながら口を開いた。
「あ、あのさ…言い難いんだけど」
その後、三代吉が顔を背けながら続けた話を聞いて驚愕する私たち。彼が言うには酔っ払った比呂美ちゃんに眞一郎と勘違いされて口でされてしまったのだと。
「そ、そ、それってフェ、フェ…」
思わずどもってしまう。多分私の顔は真っ赤になっているだろう。私は慌てて眞一郎の顔を見つめる。彼は押し黙ったまま複雑な表情を見せていた。
「御免…俺がちゃんと拒絶出来てれば…」
顔を背けたままの三代吉の謝罪は皆に向かってのものだろう。私には容易に三代吉の苦い表情が想像できた。そんな中眞一郎は俯いていた比呂美ちゃんの顔を右手で持ち上げると顔を寄せて口付けをした。あれ?比呂美ちゃんは確かついさっき嘔吐を…そんなことを考えていると眞一郎は唇を離しじっと彼女を見つめると左手で涙を拭った。
「大丈夫。もう気にしてない。もう誰も気にしてないから。そうだろ?」
振り向きつつ私に同意を求めてくる眞一郎。一瞬の躊躇の後、私は慌ててそれを肯定する。
「そ、そうだよ。気にしてないよ。わ、私だって眞一郎のファーストキス奪っちゃったんだから、お互い様よ」
正直言うと気にしてないわけではない。キスとフェラチオでは全然違うと思うし。でも今は眞一郎に従うべきだと思ったのだ。
「三代吉はどうだ?」
眞一郎の質問に三代吉もようやく振り向きながら答える。
「いや、その、俺も気にしてないって言うか。正直気持ちよかったし…」
思わず三代吉を睨んでしまう私。三代吉はまた慌てて顔を背けた。
「ほら誰ももう気にしてないぞ」
眞一郎はもう一度比呂美ちゃんの涙を拭う。私たちと話している間にまた溢れていたのだ。そして彼女は眞一郎を上目遣いで見つめた。
「…ごめんね」
「もう謝らなくていいよ。間違いは誰にでもあるんだし。大切なのは同じ間違いを繰り返さないことだろ?」
「…うん、わかった。私、もう一生お酒飲まないわ」
そう言うと比呂美ちゃんは自分で涙を拭う。正直一生飲まないというのはオーバーだと思ったが、それくらい彼女は今回のことを後悔しているのだろう。眞一郎はそんな比呂美ちゃんの頭を嬉しそうに撫でるのだった。


(12)シュレディンガーの猫

旅館を出た俺たちはタクシーに乗って駅に向かった。助手席に座った俺は背後の眞一郎たちの姿をミラー越しに覗き見る。後部座席では湯浅さんを中央にして右に眞一郎、左に愛ちゃんが座っている。全員ずっと押し黙ったまま何も喋らない。何か思うところがあるのか、あるいは何を話していいのかわからなくなっているのか、いや多分両方なんだろう。よく見ると湯浅さんは眞一郎の腕を掴んで寄り添うようにして眠っているように見える。
「寝てるのか?」
「ああ」
俺の疑問に眞一郎が答えてくる。多分泣き疲れたんだろう。気のせいか湯浅さんの眼鏡越しに見える閉じた目から涙が滲んでいる様に見える。
「湯浅さんって眼鏡かけるんだな」
「ああ、知らなかったっけ?」
眞一郎は俺が知ってるものとばかり思っていたようだ。
「私も今回初めて知ったよ。目悪かったんだね」
そこまで言った愛ちゃんは何かに気づいたのか目を見開いて口を抑えた。
「あ!」
「どうした?」
「うん、そういえば昨日私比呂美ちゃんのコンタクトレンズ踏んで割っちゃったんだ…そのせいかも…」
愛ちゃんはしょげながら言葉を続ける。
「ごめん…」
「いや、愛ちゃんのせいじゃないよ。一番悪いのは比呂美なんだから」
眞一郎は意外な事に湯浅さんに非があるとしてきた。
「意外だな。さっきの口ぶりだと湯浅さんは悪くないと思ってるものとばかり…」
「初めての酒をあんな飲み方するほうが問題だろ?それにコンタクトが割れたって眼鏡があるんだから…」
「じゃあ、なんでさっきは比呂美ちゃんを擁護したの?」
愛ちゃんの質問を受けた眞一郎は湯浅さんの頭を撫でながら呟く。
「比呂美は頭がいいんだ。だから自分が一番悪いことはちゃんとわかっている。だから他人が責める必要なんか無いんだよ」
「でもそれでも一度はきちんと言うべきなんじゃ…」
眞一郎は愛ちゃんを見つめて穏やかに反論する。
「比呂美は弱いんだ。ちゃんと、ちゃんと誰かが守ってやらないといけないんだ」
「弱い…」
呆然としながら呟く愛ちゃん。眞一郎はまた湯浅さんを見つめて頭を撫で始めた。

そうこうするうちにタクシーは駅前へとたどり着いた。まだ列車の時間にはいくらか間がある。とはいえ列車の本数を考えるとタイミングが良いほうだろう。そんなことを考えつつ代金を払うために財布を出す。支払いを終えた俺はまだ後部座席にいる眞一郎と湯浅さんに気づく。何でまだ降りてないんだ?愛ちゃんはとっくに降りているのに。
「なにやってんだ?」
「ああ、比呂美を起こさないようにと思ってな」
俺の問いかけに答える眞一郎は湯浅さんに肩を貸しながらそっとタクシーの外に出る。俺も助手席を後にして眞一郎を手伝おうと近寄る。
「手伝うよ」
「いや、いいよ…いや、比呂美をおぶりたいからちょっと手を貸してくれ」
そして眞一郎は湯浅さんを一度俺に預けるとこちらに背を向けてしゃがみ込んだ。俺は湯浅さんに肩を貸すように支えつつ眞一郎の背中に負ぶさる様な位置に持っていく。愛ちゃんはなにも言わずに湯浅さんの手を眞一郎の肩の上に置きなおす。
「こんなもんかな」
「よし立つぞ」
そして眞一郎は彼女を背負ってゆっくりと立ち上がる。
「さ、行こうか」
そういって歩き出す眞一郎。
「…眞一郎君?」
眞一郎の背中ではっきりしない呟きが聞こえる。姿勢をいじられたせいだろう湯浅さんが目を覚ましたのだ。
「ここどこ?」
湯浅さんは眼鏡の隙間から指を入れ目をこすりつつ回りを確認している。
「駅だよ。まだ寝てていいんだぞ」
「うん、わかった…」
そういうとまた湯浅さんは目を閉じて寝息を立てはじめる。眞一郎はそんな彼女を優しく見つめるとまた歩き始めた。そして先を行く眞一郎を見守りながら愛ちゃんは呟いた。
「私、ずっと誤解してた」
「何を?」
俺は正面を見つめる愛ちゃんの横顔を見ながら尋ねる。
「比呂美ちゃんのこと。眞一郎のこと。ずっと比呂美ちゃんは強くてしっかりした子だって思ってた。眞一郎が比呂美ちゃんを好きなのは強くてしっかりしてるからだって思ってた。でも違ってた。眞一郎が比呂美ちゃんを好きなのは本当は弱いから。私馬鹿だよね。何を見てたんだろう」
愛ちゃんは自分を嘲る様な笑みを浮かべた。
「私は眞一郎に見てもらえるような子になろうって、強くてしっかりした子になろう…少なくともそう見えるような子になろうって…馬鹿だよね本当…過去を変えることは出来ないけど、もしちゃんと弱さを見せていたら眞一郎は私のものになってたかも知れないんだ…」
俺は思わず愛ちゃんの手を握り締める。
「俺は!俺なら!愛ちゃんをずっと!愛ちゃんだけを見つめていられる!ありのままの愛ちゃんを!」
そして俺は愛ちゃんの目に涙が滲んでいるのに気づく。
「ありがとう。三代吉。ごめんね。もうちょっとだけ時間が掛かりそう…でも、ちゃんと吹っ切るから。いつかちゃんと三代吉だけを見てあげるから…」
そういって俯いた愛ちゃん。そして彼女の頬を涙が流れていく。俺は何か気のきいたことを言わなければと口を開こうとする。
「おーい、切符買ってくれよ。俺たちの分も」
絶妙のタイミングで掛かる眞一郎の声。すでに駅舎のまん前まで進んでいた眞一郎が俺たちのほうに振り返って叫んだのだ。愛ちゃんは涙を拭うと俺に向かって微笑む。
「さ、行こう。大事な友達が待ってる」
何も言い返せない俺の手を掴んだ愛ちゃんはそのまま小走りに走り出した。
「ほら、早く」
「わかったから、そう急かすなよ」
そして俺たちは笑いながら駅舎へと進んでいく。そう、あせる必要はないんだ。俺たちは眞一郎たちとは違う。自分たちのペースでゆっくり進めばいいんだから。俺たちの乗る鈍行列車の出発はもうちょっと先なのだから。




###########

あとがき:

なんか比呂美寝てばっかりだな。という訳で実時間から約1年遅れの二次創作の新作です。今回は章ごとに一人称視点キャラが切り替わる“聖エルザクルセイダース”方式でお送りしたわけですが(たとえが古い)誰の視点かすぐわかるよねえ?厳密には3月中旬の話も今回同様聖エルザ方式だったんだけどあれは短い話だったし時間の流れも単純だからそう混乱はしないと思う。だが今回は長い話だ。予測はしてたが本当に長い。それにテーマ的には愛子がメインなのに描写自体は比呂美が中心になるというイレギュラーな話だ。個人的にはあまり失敗せずにですんだような気がするのだが…あ、電車内での食事のシーンは失敗ですね。本来は比呂美のお弁当だけの予定だったのに駅弁食べさしたほうがよくないか等と迷いが生まれてしまい、でも比呂美寝不足を説明する要素は必要だ。でないとあの台詞が出せない。等と迷走したあげくに駅弁とお弁当の両方を食べさせるという展開に。正直テーマともかみ合ってない駄目シーンになりましたとさ。…駄目じゃん俺。でも卓球シーンは予定外だったけど失敗にはなってないと思う。描写の下手糞さとかは失敗以前の問題だから関係ないしね!…いや、俺ももうちょっと文章がちゃんと書けるようになりたいとは思うんだけど。ま、あせっても無能はどうにもならないんで自分のペースでやっていきましょうと自己弁護。俺の乗るトロッコの速度は誰よりも遅いのだから。
スポンサーサイト

2009-04-25(Sat)

二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(中編)

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(中編)
           この話は前編からのつづきになります。こちらからどうぞ。







(5)油の浮力

「疲れたーっ」
湯船に漬かった私は思わずそうつぶやいていた。私の後に続いて比呂美ちゃんも湯船に入ってきた。
「愛ちゃんって相変わらずじゃんけん弱いんだね」
「比呂美ちゃんが強すぎるだけだよ…」
私は呆れるように青空を見上げた。そうここは露天風呂だ。そして今はまだ空が夕焼けを見せるにはまだ少し早い。すると隣から比呂美ちゃんが私の胸元をじっと見つめてきた。
「な、何?」
私は思わず胸をかき抱くように腕で覆い隠す。まあ実際は簡単に隠せるような胸ではないのだが。すると比呂美ちゃんは口を尖らせるような口調で呟いた。
「絶対追いついてるって思ってたのに」
そういう比呂美ちゃんの胸もプカプカと温泉に浮いている。いつの間にこんな成長を遂げたのだろう。もう私と大差ないくらいの大きさにまで育っている。
「すごいよね。これならもうじき追い越されちゃうわ」
私は彼女を称えずにはいられない。そしてちょっと悲しくなってしまう。唯一と言っていい私が彼女に勝っている点、すなわち胸の大きさもいずれは負けてしまうのだ。ウエストの細さもそこそこ自信があったのだが彼女にはかなわない。ヒップは私のほうが少し大きめだろうか?でも身長の差が大きいからトータル的なスタイルは彼女のほうがずっと上だろう。それに髪を上げた比呂美ちゃんのうなじは年下とは思えないほどに色気を醸し出している。ため息を出るのをなんとかこらえた私は気を取り直して彼女に尋ねてみた。
「私的にはちゃんと男女別々のお風呂で助かったと思うんだけど…比呂美ちゃんはやっぱり混浴の方が良かった?」
「ううん、混浴はいや」
意外な答えを返す彼女。
「眞一郎と一緒に入りたくないの?」
「そりゃ眞一郎君と二人っきりの貸切ならね。でも私の体を他の男に見せたり、眞一郎君の裸を他の女に見せたりしたくないし」
「深夜とか早朝とかは?」
「人のいなさそうな時間を狙ってくる人だっているでしょ?」
「そういうことか」
比呂美ちゃんは本当に独占欲が強い。確かに子供の時にも眞一郎の隣に私が座っていると間に強引に割り込んできたりしてきたっけ。私が昔を思い返していると比呂美ちゃんは話を続けてきた。
「そもそも私がやりたいのは洗いっこだし」
「洗いっこ?」
「うん、眞一郎君の体を私が隅々まで洗ったり、洗ってもらったり」
「自分のとこじゃ出来ないの?」
「ユニットバスじゃねえ…二人入ると狭くて狭くて…」
どうやら一緒に入ったこと自体はあるらしい。私にはユニットバスの広さというのはよくわからないのでピンとこなかったが。
「眞一郎の家は?」
「…おばさんとか大抵家に誰かいるし、買い物に行く時間も割りと不規則だもの。家に誰かいる時にはさすがに一緒にお風呂に入れないわ」
「なるほどねえ」
「ああ、一度でいいから彼の体をこの胸で洗ってあげたいな」
そう言うと比呂美ちゃんは発育した胸を両手で持ち上げた。そんな彼女を見ていると逆に私の顔が赤くなってしまう。思い人を手に入れた比呂美ちゃんは本当に大胆になったと思う。普段の優等生の彼女からは想像できない位に。成績優秀で運動神経抜群、礼儀正しい優等生、美人でスタイルもいい。そんな彼女が積極的に異性を独占しようとしたら、私なんかじゃ到底敵う筈もない。いや、たとえ誰であろうと敵わないだろう。そんな事を考えながら私が空を見上げると一匹の烏が鳴きながら横切っていくのが見えた。それはまるで負け犬にしかなれない私をあざ笑っているかのようだった。


(6)固体の熱膨張

「どうせなら混浴が良かったよなあ」
頭を洗いながらついつい俺の口から漏れ出てしまう本音。体を洗っている眞一郎はそんな俺の願望に口を挟んできた。
「でも、一緒に風呂に入れるほど進展してるわけじゃないんだろ?」
「それをいっちゃおしめえよ。でも湯浅比呂美の裸も見たいしな」
眞一郎が俺を睨む様な気配がする。
「…比呂美の裸は誰にも見せる気はないぞ」
「自分一人だけのものってか?羨ましいよ」
俺は湯を頭から被りシャンプーの泡を洗い流した。そして頭を振って水気を少し飛ばす。
「まあいずれは俺もそういうこと言えるようになってみせるぜ。いや寧ろ愛ちゃんにそういうことを言わせたい!」
思わず拳を握って青空を見上げてしまう。隣の眞一郎も俺を応援する意を示した。
「頑張れよ」
「そして“イク、イク、イっちゃうぅ!”とかも言わせて見せるぜ!」
立ち上がって叫ぶ俺の脳裏にふとした疑問が浮かぶ。俺は立ったまま眞一郎を見下ろした。
「どうした?」
俺はしゃがみつつ眞一郎に顔を寄せ小声で話しかける。
「ちょっと聞きたいんだが…女の子ってイクときに実際今みたいな事言うのか?」
眞一郎は体を洗う手を止めた。
「一般論を聞かれても困るが…」
「お前らの場合でいいんだよ。教えてくれよ」
眞一郎は俺から目を逸らしながら呟いた。
「…眞一郎君…」
「は?」
思わず聞き返してしまう俺。眞一郎は体を洗う手を早めながら答える。
「だから!眞一郎君眞一郎君って繰り返すんだよ…」
「イク時にか?」
「だからそういってるだろ!」
真っ赤になりながら声を荒げる眞一郎。俺は呆れながらも奴を羨望の目で見つめるしかなかった。
「それってお前じゃないとイかないっていうことじゃねえか…くそぅ、羨ましすぎだぜ」
俺の脳裏に眞一郎を強く抱きしめながら名前を連呼している湯浅さんの姿が浮かんできた。下半身に血液が集中し始める。俺も愛ちゃんに名前を連呼されたい。脳内で想像した眞一郎と湯浅比呂美の姿が俺と愛ちゃんに摩り替わる。妄想内で俺の名前を連呼しながら抱きしめてくる愛ちゃん。そして気がつくと俺のイチモツは元気な姿を見せていた。
「やべ、勃っちゃったよ」
眞一郎は呆れ顔を見せながら笑う。
「おいおい」
俺は元気になった竿をしっかりと洗うことにした。
「ちゃんと洗っておかないとな」
隣の眞一郎に呆れられながらも俺はその後しばらく妄想を止める事ができなかった。今夜の愛ちゃんとの初夜が実現できることを熱望しながら。


(7)慣性モーメント

最初に温泉宿に卓球台を置こうとしたのは誰だろう。というか温泉宿に卓球台があるというのも物語の上での話で実際に置いてあるとは思ってなかった。そんな訳で湯上りに卓球台を見つけた私がとちょっと感動してしまったのも無理からぬ事なのだ。卓球台の存在に喜んだ私は思わず眞一郎君たちを誘ってしまう。でも私は別に卓球が得意という訳ではない。そんなに経験がないからだ。だけども体を動かす事自体は大好きだ。卓球だって例外ではない。そういうわけで半ば私が無理矢理誘った形でこの風呂上りの浴衣姿での卓球大会は始まったのだった。

「比呂美ちゃん上手すぎるよ…」
一点も取れずに終わってしまった愛ちゃんは浴衣の着崩れがないか確認しつつため息をついた。そうだろうか?中学時代に昼休みの教室で机二つを使って卓球をしていたクラスメイトたちを見つけたときに混ぜてもらった事がある。そのうちの二人は卓球部員だったが私は勝つことは出来なかった。その後ピンポン球に寿命が来るまでの何日か教室卓球に混ぜてもらったが結局卓球部員に勝つことは叶わなかった。惜しい所まではいったのだが…いや、これは言い訳だ。敗北にはかわりがない。とにかく私は卓球部員ほど上手くはない。つまりは愛ちゃんが弱すぎるだけだと言うことだ。それに愛ちゃんは途中で勝負を諦めてしまった節がある。結果が見えてても最後まで全力を出し切るのがスポーツマンシップというものなのに。
「よし、次は俺とやろうぜ」
野伏君の立候補で第2戦が始まる。ちょっとは楽しめるかもしれない。そう感じたのは少々買いかぶりだったようだ。愛ちゃんよりはずっと上手いものの、卓球部員には程遠い。私から見ても役者不足だった。2点ほど取られてしまったがほぼ圧勝と言っていいだろう。完敗してしまった野伏君は肩を落としている。ひょっとしたら彼は愛ちゃんの前で良い格好をしたかったのかも知れない。でもスポーツの世界は、勝負の世界は常に非情なのだ。手を抜くことは逆に失礼だと私は信じている。私は一度浴衣が崩れてないか確認した後、私は残った眞一郎君を見つめる。眞一郎君には和服がよく似合う。浴衣姿の彼は普段よりも5割り増しで眩しく感じられる。そんな眞一郎君は困ったような顔をしつつ卓球台に歩み寄ってラケットを手にした。
「俺じゃ比呂美には勝てそうにないけど…」
そういうと眞一郎君は真剣な面持ちを見せてきた。

眞一郎君は愛ちゃんと野伏君の中間位だろうか。いや、やや野伏君寄りだろう。どっちにしろ私を苦戦させるには程遠い。結果は1対11。ほぼストレート勝ちだ。
「やっぱり比呂美には敵わないな」
そう漏らす眞一郎君の顔には柔らかな微笑が浮かんでいる。彼は私の勝利を喜んでくれているのだろう。私も彼に微笑を返す。すると野伏君が予備のラケットを持って台に近づいてきた。
「よし、じゃあハンデ付きでやろうぜ。2対1だ」
どうやら野伏君は眞一郎君と組んで二人で私一人に挑むようだ。私は少し浴衣を直しながら応える。
「いいわよ。ダブルスなら本来は打ち返すのは交互にしないといけない筈だけど、別に無視してもいいわ」
「舐められたもんだな」
「それなら比呂美といい勝負になるかもな」
そしてハンディキャップマッチが始まる。まずは眞一郎君のサーブ。とりあえず確実に入れる事を狙ってきた緩めの球だった。チャンスボールだ。私はそれを見逃さずにスマッシュ。スピードが乗ったボールに眞一郎君たちは反応できない。ボールは台の端に弾かれて床の遠くのほうに落ちた。
「うわ、あんなの返せないよ」
観戦していた愛ちゃんが呟きを漏らす。
「くそ、眞一郎、もっと強い球打てよ」
ボールを拾って戻ってきた眞一郎君は頷きながら玉を野伏君に投げ渡した。そして今度は野伏君のサーブ。私に緩い球を渡しては駄目だと強めのサーブを放ってきた。だがチャンスボールとは言えないものの特に苦もなく返せる球だ。私は相手コートの隅目指して打ち返す。そして眞一郎君はそのボールの正面まで動き打ち返してくる。返されたボールを私はじっくりと見つめボールの下側でラケットを前に滑らせながら打ち返す。私の打った緩めの球を見て野伏君が眼を光らせる。そしてバウンドした球を打ち返そうとする。だがピンポン球は余り手元に跳ねてこない。慌てて野伏君は前に出てくるも球の2バウンド目には間に合わない。2度目のバウンドはさらに前に跳ねなくなっている。そして3バウンド目には球は後ろに向かって、すなわち私の方に跳ねてきた。うん、ちゃんとバックスピンはかかった様だ。
「あんなの返せないぜ」
野伏君が泣き言を言ってくる。眞一郎君はボールを拾って私に投げつつ感心の意を示してきた。
「すごいな比呂美。いつ覚えたんだ?」
「うん、昔ね」
先ほどの教室卓球にて卓球部員の一人が使っていた技を私は見よう見まねで練習してみた事がある。いくらか練習していたら出来るようになった。卓球部員が言うにはバックスピンではなくカットと言うらしい。久しぶりだから不安だったがいい感じに決める事が出来て私は満足していた。結局ハンデ戦と言っても3点ほど取られただけで私を苦戦させる事なく終わってしまう。レベルが違うとの事でその後は私は観戦側に徹する事を強要された。その後何通りかの対戦を観る事になったが、その中でも眞一郎君と野伏君のカードは低レベルとは言え結構な接戦を見せ、観客を楽しませてくれる。やがて夕食の時間が来た事に気づいた私たちは部屋に戻る事になった。だが結局愛ちゃんは誰と対戦しても余り良い試合を見せてくれなかった。そして心なしか愛ちゃんの顔がちょっと悲しげに見えたのは私の気のせいではないのだろう。でも仕方ない事だ。勝負の世界はいつだって非情なのだから。


(8)ビタミンとその他の栄養分の摂取

夕食は中々豪華だった。山間にある温泉宿だから山菜が中心になると思いきや、それだけでなく川魚や海の幸もふんだんに取り入れてある。さらに言えばかなりの美味だった。それに旅館自体もわりといい雰囲気だ。俺たちがいる部屋は二部屋を仕切る襖を開けて一つなぎにしてある。ようするに寝るときは襖を閉じて元の二部屋に戻すことも出来るのだ。うまくいったら半額払うと三代吉が言っていたからてっきり安い旅館のぼろい部屋に違いないと踏んでいたのだが。ようするにそれだけ三代吉が本気だと言うことなのだろう。俺は三代吉と愛ちゃんの仲の進展を祈らずにはいられなかった。そんな中、俺は仲居さんが一升瓶を運んできたのに気づく。
「お、来た来た」
「おい、三代吉…」
俺が三代吉に意見を発しようとすると奴は俺に向かってウインクを見せた。
「硬い事はいうなよ。折角親の目が届かない所にいるんだぜ」
「それ、お酒だよね」
愛ちゃんの言葉を肯定しながら三代吉はグラスに日本酒を注いでいく。
「お前だって飲んだことないわけじゃないだろ」
「いや、ない訳じゃないけど」
「眞一郎君、お酒飲んだことあるの?」
比呂美が俺の隣で少し責めるような目を見せてくる。
「いや、子供の頃さ。こっそり店の酒を飲んだ事あったんだ。そしたら酔っ払って転んで酒瓶を沢山割っちゃって…親父と母さんにこってり絞られたよ」
「そんなことあったんだ」
「それ以来はずっと飲んでないんだ」
それを聞いた比呂美は納得を見せるも、すぐに三代吉を睨みだした。
「未成年者の…」
「湯浅さんは飲めないの?酒蔵の嫁になる女なら酒ぐらい飲めないと行けないよなあ」
三代吉のちょっと挑発するような言葉に比呂美は何かを感じたように暫く何か考えているようだったが、やがて意を決したかのように口を開いた。
「…そうね。仲上の嫁ならお酒の嗜みは必要かもね」
あっさりと説得された比呂美の横顔を見ながら俺は肩を竦める。その時俺は愛ちゃんの視線に気づいた。彼女もまたちょっと困ったような呆れたような目を見せている。
「愛ちゃんは飲めるの?」
俺は疑念を確かめてみる。
「どうかな?父さんは飲むけど母さんは飲まない人だし」
「ま、とりあえず一口だけでも飲んでみようよ」
そういうと三代吉は全員に日本酒を入ったコップを廻していく。そしてコップを高く掲げた。
「それでは眞一郎と湯浅さんの未来と愛ちゃんの幸福を祈って、乾杯!」
「乾杯」
乾杯と言うのは本来は杯を乾かすと書く。すななわちコップを空にしないといけない筈。余り日本酒でやることじゃないだろう。俺も二口ほどで止めておいたし、案の定三代吉もコップ半分も飲んでいない。そんな中愛ちゃんがゲホゲホと咳き込んでいた。
「大丈夫?」
俺は不安になって愛ちゃんの顔を覗き込む。愛チャンは青ざめた顔をしていた。
「やっぱり駄目。私にはお酒は合わないんだよ。きっと」
「無理して飲むことないよ」
そういうと三代吉は愛ちゃんが使ったコップを受け取って残りのほぼ一杯分の酒を一気に飲み干した。
「おお、すごいな三代吉」
「任せろ!」
俺の賛辞を受けて調子に乗る三代吉。そんな中、俺は比呂美が空のコップを差し出しているのに気づいた。比呂美は顔を真っ赤にしながら微笑んでいる。
「お酒っておひしいのね」
「大丈夫か。無理しちゃ駄目だぞ」
「らいじょうぶ、無理なんかしれないわよぉ。もういっぱい」
大丈夫じゃない。すでに呂律が回ってない。
「お、いける口かい?」
そういうと三代吉は比呂美の持つ空のコップに日本酒を注いでいく。だが注ぎ終わるや否や比呂美はそれを一気飲みしてしまう。
「おい、比呂美。そんな飲み方するなよ」
初めての酒でする飲み方ではない。こんな飲み方だと急性アルコール中毒にもなりかねない。俺は彼女にこれ以上飲ませないようにしなければと思う。
「なによ、別にいいじゃない…あ、わかったわ。酔い潰れちゃうろ、おらのしみら無くなっちゃうもんね」
そういうと比呂美は俺に体を寄せてくる。
「らいじょうぶらから。なんならひまここでする?」
比呂美は蕩けたような瞳で俺の浴衣の中に手を差し込んできた。
「おいおい、人前だぞ」
俺は比呂美の手を掴むと彼女自身の太腿の上に持っていく。すると三代吉は呆れたような声で俺たちを揶揄してきた。
「お熱いねえ」
すると比呂美は頷きながら浴衣の胸元を少し肌蹴る。
「あつひの」
「おおおお」
「三代吉…」
感嘆する三代吉とそれを白い目でみる愛ちゃん。俺は三代吉に比呂美の胸元を見せないように胸の中に抱き寄せた。
「しんひちろうくん…」
「全く…」
俺の胸に頬を寄せる比呂美は目を閉じる。そして呂律の回ってない言葉を発しなくなったかと思うとやがて静かな寝息をし始めた。
「寝ちゃったのか?」
「みたいだな。ちょっと座布団轢いてくれ」
「おう」
三代吉に座布団を並べてもらうと俺は比呂美を抱えて座布団の上に横たえた。その安らかな寝顔を見て俺は一安心する。とりあえず彼女は急性アルコール中毒とは無縁なようだ。でもこれからちゃんと自分に見合った量を覚えさせないと駄目だろう。そう考えながらテーブルに戻った俺は酒を一口飲むと刺身に箸を伸ばすのだった。

    (後編へつづく)

2009-04-25(Sat)

二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(前編)

true tears 二次創作小説です。本編全話視聴終了済みの方のみご覧ください。



二年次05月上旬:「四人の温泉旅行」(18歳未満閲覧禁止)(前編)








(1)形容詞の比較級

私が小学校からお店へと直行すると、中にはすでに比呂美ちゃんと眞一郎の姿があった。
「あ、愛ちゃん」
「おかえり」
私に気づいた二人は挨拶をしてくる。本来はこの店は自宅ではないのだが、二人にとってはここが私の家という感覚なのだろう。私も彼らの挨拶に普段どおりに返すことにする。
「ただいま」
そういうと私はランドセルを椅子の上に置きながら二人の対面に座った。
「父さん、コーラ」
私は今川焼きを焼いている父さんに向かって注文をする。父さんはしかめっ面をしながらぶっきら棒に返答してくる。
「今は手が離せないな。自分で出しな」
私は渋々立ち上がると厨房側に入ってコーラのビンを取り出した。そして栓を抜きストローを差し込んでまた客席に戻る。
「大体コーラだってただじゃないんだぞ」
父さんの愚痴はいつもの事だ。取りあえず私は無視を決め込む事にした。そして対面で紙切れをじっと覗き込むようにしている二人に尋ねる。
「何?」
眞一郎が紙切れを仰ぐようにしながら答える。
「テストだよ。算数の」
「眞一郎君、ちょっと点数が悪かったって言うから、少し教えていたの」
「ふうん…」
二人の返答を聞き流す私。すると父さんはボソリと呟いた。
「比呂美ちゃんはすごいよね。うちの娘もそれくらい優秀だったら良かったのに…馬鹿で困るよ。チビだしな」
父さんの言葉に含まれている小さな針が私の心に刺さってくる。
「…どうせ私は頭悪いですよ。それにチビは父さん譲りだよ」
たしかに私はテストの点数があまり良くない。それに比呂美ちゃんは私に読めないような難しい漢字ですらもすらすらと簡単に書いてしまう。テストも殆ど100点に近い点数しか取った事がないらしい。私とは根本的に頭の出来が違うのだ。そして身長も年長の私が3人の中で一番低い。私には年上の面目と言うものが保てる事など殆どないのだ。そんな事を私が考えていると眞一郎が父さんを見つめて反論しだした。
「愛ちゃんは馬鹿じゃないよ。おじさん」
眞一郎の言葉は私の心に刺さった小さな針をゆっくりと溶かしていく。そう眞一郎は、眞一郎だけは私と比呂美ちゃんを比べない。比べたりしないのだ。そして私は眞一郎を見つめる。いつだったろうか。この思いに気づいたのは。いつの間にか眞一郎は私にとって特別な存在になっていた。その眞一郎は隣の比呂美ちゃんから答えの出し方を聞いて頷いている。眞一郎の隣にいると比呂美ちゃんは本当に楽しそうな顔を見せるのを私は知っている。そう、わかっている。彼女もまた私同様に眞一郎の事が好きなのだ。そして多分眞一郎も…
「坊ちゃんは優しいねえ。誰かと違ってただ食いもしないし」
父さんの言葉が私の心にまた小さな針を刺した。
「別にいいでしょ。うちの店なんだから」
私は父さんの言葉に傷ついている事を表に出さないように気をつける。眞一郎が好きなのは比呂美ちゃんのようなしっかりした子なのだ。私はもっとしっかりするか、あるいはしっかりして見えるようにしなければならないのだ。私は棚の方まで行きトランプを取り出すとテーブルの上に置いた。
「勉強は学校できちんとすればそれでいい筈。学ぶときは学ぶ。遊ぶときは遊ぶ。けじめをつけないとね」
「愛ちゃんの言うとおりね。じゃ、続きはまた次の機会にしましょう」
比呂美ちゃんは私の言葉に同意したようだ。眞一郎もまた私の意見に納得したようでテスト用紙をランドセルに仕舞い込んだ。
「さ、何する?」
トランプを切りながら尋ねる私。
「じゃあまず七並べで」
「オーケー」
私は比呂美ちゃんのリクエストに従ってカードを配り始めた。その後、ブラックジャックやポーカー、ダウトなど幾つかのゲームに切り替えたが、その殆どは比呂美ちゃんの圧勝だった。頭を使うのも得意なら運もわりと強い。そしてスピードなどの反射神経が重要なゲームもまた彼女の独壇場なのだ。私は彼女にはずっとかなわないのかも知れない。そんな事を考えてしまう。私同様に負けている眞一郎は何故か嬉しそうに比呂美ちゃんを見ている。眞一郎は比呂美ちゃんが勝つのが嬉しいのだろうか?そんなに強くてしっかりした子が好きなのだろうか?眞一郎は私を一番に見てはくれないのだろうか?そんな葛藤を抱え続けた私が眞一郎の好みを誤解していた事を知るのはまだずっと先の話になるのだった。


(2)1/fゆらぎの振動

電車の振動が眠気を誘ったのだろう。いつのまにか湯浅さんは隣の男にもたれかかる様に居眠りをしている。
眞一郎はそんな彼女を隣で愛しそうに見つめている。こいつらは本当に通じ合っているというのが俺の目にもわかる。本当に羨ましい限りだ。いつかは俺と愛ちゃんもこいつらみたいになれるのだろうか。俺は隣にいる一つ年上の小柄な少女に目を向けた。愛ちゃんもまた眞一郎達を見つめている。ただその視線は俺とはまた違った意味を持っているように思える。多分彼女の中にはまだ眞一郎への未練が少し残っているのだろう。そんなことを考えていると彼女が視線に気づいて俺の方を見つめる。俺が慌てて目を逸らすと彼女もまた視線を泳がせたようだ。まずい。こんな時はなんと言えばいいのだろう。そんな事を考えていると車内アナウンスが流れ始めた。どうやら大き目の駅に着くらしい。まだまだ先は長い。そろそろ腹に何か入れておくといいかもしれない。
「腹へらね?」
「いいけど。駅の構内で?」
愛ちゃんが俺の顔を覗き込んできた。
「いや、どうせなんだから駅弁でも食おうぜ。眞一郎もいいよな?」
「俺は構わないが…」
眞一郎はそう答えると眠っている湯浅さんを見つめる。そして少し躊躇した後、彼女の肩を揺らし始めた。
「おい、比呂美。起きろ」
湯浅さんは寝ぼけ眼を擦りながら姿勢を正す。
「うーん」
「駅弁どうする?」
「…眞一郎君はもうちょっと足腰鍛えたほうが…」
なにやら意味不明な返答をする彼女。
「…寝ぼけてるな」
正直、湯浅さんのこんなだらしない姿を見るのは初めてだ。彼女にもこういう面があるとは思いもしなかった。眞一郎は彼女のこんな姿も見慣れているのだろうか。奴はただ優しく恋人を見つめていた。
「比呂美、食事どうする?駅弁でも買うか?」
眞一郎の言葉に湯浅さんは段々意識がはっきりしてきたらしい。
「ご飯?」
欠伸交じりに会話の内容を確認してくる湯浅さん。そんな彼女から視線を俺の方に移しながら愛ちゃんが口を開いた。
「私は鱒寿司がいいかな。三代吉は?」
「俺も同じでいいよ」
「じゃ、俺たちも…」
眞一郎も俺たちの答えに習おうとすると湯浅さんは奴の前に手を出してそれを制止した。
「ちょっと待って」
「他のがいいのか?」
眞一郎の問いかけに湯浅さんは手荷物をあさり始める。
「一応おにぎりは少し用意しておいたけど…どうする?」
そう言うと彼女はタッパーを取り出した。
「別に今すぐ食べなくても夜食とかにする手もあるけど」
そう付け足す彼女。俺と愛ちゃんは顔を見合す。
「じゃあさ、鱒寿司を一個だけ買って皆で分けるってのは?」
眞一郎の提案。だが愛ちゃんから忠告が入る。
「小さいのもあるけど…本来の鱒寿司は一個で二人分以上あるのよ?」
「大丈夫だって。俺も眞一郎も結構食うし。お握り食って鱒寿司の半分くらいなら十分食いきれるだろ」
俺はおにぎりも鱒寿司も食べきることが出来ると断言して見せた。
「私は少食なんだけどな」
「大丈夫、愛ちゃんが残しても俺が全部食って見せるから」
で結局俺の意見が採用され俺は2個分つまり四人分の鱒寿司をホームの売店で購入した。そしてまず鱒寿司を分割して皆で食べる。おいしいねとそれぞれが一口目の感想を述べていると列車はまた動き出した。そして動く列車の中のボックス席で流れる景色を眺めつつ仲良く駅弁を食べる。本当に俺たちは旅行をしているんだという実感が沸いてくる瞬間だ。そして結局愛ちゃんは半分の鱒寿司の内の4分の3ですなわち8分の3、残りの8分の5は俺が食べることになった。眞一郎も湯浅さんもきっちり半分食べきったようだ。そして眞一郎は湯浅さんの用意したおにぎりに手をつけ始めている。どうやらおにぎりはまたも筍の炊き込みご飯らしい。ちょっと拘り過ぎだと感じながら俺もおにぎりに手を伸ばした。8個用意してあったおにぎりの内の半分の4個が俺のノルマだったわけだが正直2個食った段階でもう腹いっぱいになっていた。だが食べるといってしまった手前投げ出すわけにもいかない。
「大丈夫?三代吉」
愛ちゃんが心配そうな顔を見せてくるも俺は大丈夫と強がって何とかノルマを平らげることに成功した。眞一郎も自分のノルマをこなしてちょっと苦しそうだ。
「ごめんね、眞一郎君。私が勝手におにぎり作ってきたばっかりに…」
「大丈夫、すぐに消化するよ。これくらい」
湯浅さんは眞一郎の心配ばかりで俺のことは全く気にかけてないようだ。まあ彼女はそういう性格だというのは俺もとっくに気がついている。むしろ愛ちゃんが眞一郎でなく俺の心配をしてくれたことを喜ぶべきだろう。俺たちの距離は着実に近づいている。今回の旅行の間にゴールできる可能性がまた少し上がったと俺は感じていた。

食事の後はトランプで時間を潰す事になった。トランプは先月愛ちゃんからの眞一郎への誕生日プレゼントとして渡したやつだ。電車の中でも出来るゲームは限られる。ババぬきやポーカー、ページワン、この3種のゲームを行ったが、その殆どは湯浅さんの一人勝ちになった。始まる前にトランプと聞いて愛ちゃんが苦い顔をした理由がなんとなくわかった気がする。勝ちが一人に偏ると負け続きの残りの者はあまり楽しくなくなってしまう。これ以上場の空気を悪くしたくないと感じた俺がもうトランプは止めようと言いかけたとき車内アナウンスは目的地が近づいたことを教えてくれた。助かったと俺は胸を撫で下ろす。隣の愛ちゃんもまた同じように胸を撫で下ろしていた。同じことをしていた事に気づいた俺たちは顔を見合わせて苦笑いをしたのだった。


(3)オーガズム曲線

至福の時間は十数分間ほど続く。男の子だと絶頂はすぐに終わってしまうらしい。女に生まれて本当に良かったと思う反面、眞一郎君がかわいそうだとも思う。そのかわいそうな眞一郎君はコンドームを結んでロフトのベッドサイドに常備してある小さなゴミ箱に放り込んだ。そしてその傍にあるティッシュ箱から2枚を取り出して一枚を私に差し出した。
「ありがと」
私はティッシュを受け取るとラブジュースで濡れた股間を拭いた。眞一郎君もティッシュで後始末をしている。そして眞一郎君はそれをゴミ箱に放り込むと私をしばらく見つめて口を開いた。
「なあ、お前ゴールデンウィーク予定空いてるよな」
「うん。空いてるけど」
私は丸めたティッシュを眞一郎君に投げる。眞一郎君はそれを受け取るとまたゴミ箱に捨てた。
「うん、実は…三代吉がな」
「眞一郎君は野伏君とどこか行くの?」
私は思わず眉をひそめる。恋人をそっちのけにして友達と遊びに行くというのだろうか?
「いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけどちょっと違うんだ」
じゃあ、どういうことなのだろうか?私が頭を悩ませていると眞一郎君は話を続けた。
「四人で出かけないかって」
「四人?愛ちゃんも?この間みたいに?」
春休み中の月曜に私たちは野伏君の提案により四人で遊園地に出かけた。彼にちょっとした借りがあった私たちは誘いを無下に断ることなど出来ないし、愛ちゃんに私たちの熱愛を見せ付けるチャンスでもあったからだ。そして遊園地では私は眞一郎君と思い切りイチャイチャして見せた。愛ちゃんたちはちょっと呆れてたみたいだったが、彼女が眞一郎に未練を残さないようにするには必要なことだったと思っている。そうなふうに私が瞬間的に遊園地での事を思い返している間にも眞一郎君は話を続けていた。
「うん、温泉に行きたいんだと。でも流石に二人きりだと愛ちゃんが首を縦に振らないだろうから」
「なるほどねえ。で予算は幾ら位なの」
「それなんだが、うまく行ったら俺らの分の半額出してもいいって三代吉が」
「うまくって…最後まで行くつもりなの?」
いつの間に二人の関係はそこまで進展したのだろう。もうゴールまで後一息だとは。
「うん、三代吉自身はそういうつもりの旅行らしい」
眞一郎君もそうそう最後までいけるは思ってはいないようだ。
「なるほど…半額ね。うん、わかったわ。行きましょう温泉」
「そうか。良かった。ありがとう。あいつも喜ぶよ」
そういうと眞一郎君は私にキスをしてきた。彼は私が半額に釣られたと思っているかもしれない。でも私の真意は他にある。愛ちゃんが本当に野伏君を選んだのか確認したいのだ。眞一郎君に未練を残してないかはっきりさせたい。そう思って私は温泉旅行に同意したのだ。そして長いキスを終えると眞一郎君は私に質問をしてきた。
「そういやお前って温泉いったことあるのか?」
「ないわよ?家はそんなにお金なかったしね」
「俺もだよ。親父は年中仕事してるから。そんな暇ないみたいで」
お金持ちの眞一郎君が温泉が初めてと言うのはちょっと意外だったが、おじさんの休暇の問題ならば納得が出来る。私が同居していた一年ちょっとの間もおじさんが休みだった日などなかったように思う。本当に仕事一筋な人なのだろう。
「じゃ、私たちはじめて同志だね」
「そうだな」
そういうと私と眞一郎君は笑いあった。初めての温泉旅行。二人きりでないのがちょっと残念だが、初めての恋人との旅行に私の胸は期待を覚えずにはいられなかったのだ。


(4)期待値とのずれ

目的の宿までは結構距離がある。三代吉の予定ではタクシーを使うはずだったらしい。だが歩いて30分位だと聞くと比呂美は歩いていこうと提案してきた。何でも電車の中ではずっと座りっぱなしだったから体を動かしたいらしい。俺は別に歩いてもかまわなかったし、三代吉も体力的には余裕で大丈夫だろう。だが問題となるのは愛ちゃんだ。特に運動が得意と言う訳でもない彼女に30分もの徒歩を強要して良いものだろうか?俺と三代吉が視線で相談していると愛ちゃん本人から賛同を示してきた。まあ、いざとなったら三代吉が肩を貸したりすれば良いだろう。そんな考えを持っていた俺の甘さを比呂美の更なる提案が吹き飛ばしてしまった。電柱1本分歩く毎にじゃんけんをして負けた人に全員分の荷物を持たせようというのだ。これにはさすがに俺も反対した。だが三代吉の賛同と愛ちゃんのどちらでも構わないとする中立宣言によって比呂美案は多数決で採決される事になった。俺一人が反対を押し切っても良くないだろう。仕方なく俺も多数決決議に従うことにする。そして早速じゃんけんをする事になったが、最初の敗者は三代吉となった。三代吉は負けて全員分の荷物を持つことになった割りにやけに嬉しそうだった。そう、今回の三代吉は本当に浮かれている。でもそれも仕方ないことだろう。俺は以前の三代吉との会話を思い出していた。

「よう三代吉」
「おはようさん♪」
下駄箱前で偶然に鉢合わせた俺と三代吉は互いに挨拶を交わした。リズミカルな挨拶が示すようにその日の三代吉は妙に機嫌が良い。
「何かいいことあったのか。あ、俺とまた同じクラスなのがそんなに嬉しいのか?」
俺と三代吉は今年も同じクラスに配属となった。冗談めかして言ったことだがそれは確かに喜ばしいことだった。ただ残念な事に比呂美とは別のクラスになってしまった。まあ、別にあいつの部屋に行けば幾らでも触れ合える。すなわち学校で係われなくとも十分に取り返せるのだ。構わないだろう。大体学校では距離を置こうという比呂美の提案を俺は最初から受け入れている訳だし。ちなみに乃絵と別のクラスだったことに俺は思わず胸を撫で下ろし一安心してしまったのだが取り合えず今は関係ない話だ。
「こないだはありがとな。付き合ってくれて」
「ああ、あれぐらいどうってことないよ」
三代吉の話は春休み中に4人で遊園地にいったことについてだ。三代吉たちはまだ二人きりで本格的なデート出来るような関係にはいたってないらしい。だから俺と比呂美と合わせて4人で出かけることにして愛ちゃんを納得させたのだ。俺としては断る理由もないし、第一三代吉には借りもある。すぐに同意の返事を返した。唯一の不安材料だった比呂美も夜に話を切り出すとあっさりと同意を示してきた。そして決行されたダブルデートは概ね成功を収めたと言っていいだろう。愛ちゃんが絶叫系が苦手なのは意外だったが彼女自身はトータル的にはそれなりに楽しめたらしい。そういえば比呂美がなぜかいつも以上に甘えてきてちょっと不思議に感じたのだが。多分久しぶりの遊園地ではしゃいでいたんだろう。そんなことを考えていると三代吉がにやけながら俺の肩を強く叩いてきた。
「聞いてくれよ眞一郎。聞いてくれよ」
「わかったわかった。聞くからさ、叩くなよ」
俺は背中を擦りながら尋ねる。
「で、何かあったのか?」
「あったなんてもんじゃないぜ!キスだよ!キスしちゃったんだよ!」
「愛ちゃんとか?」
「他に誰がいるよ。あのダブルデートの後、お前らと別れ二人きりになってから話してたらいいムードになってさ…」
「そうか…良かったな」
「橋の真ん中でのファーストキス。俺は一生忘れないぜ」
拳を握って力説する三代吉。そんな三代吉を見ていると俺まで嬉しくなる。
「…でも愛ちゃんは初めてじゃないだよな」
拳を下げる三代吉。俺は慌ててフォローした。
「でも結構ハイペースじゃないか。3ヶ月ちょっとだろ?」
俺の言葉に三代吉は半目を見せる。
「付き合ってすぐに最後まで行ってる奴が言うか?」
三代吉は痛いところをついてくる。反論できずにいる俺に三代吉は言葉を続けた。
「でも俺だって!あと少しなんだ!そう、ゴールデンウィークこそが勝負のときだ!」
「が、頑張ってくれよ」
漫画だったら目から炎が出そうなほど燃えている三代吉。俺はそんな奴の成功を祈らずにはいられなかった。

そして俺が三代吉との会話を思い返してる間も電信柱ごとの荷物もち決定じゃんけんは続き、結局言いだしっぺの比呂美は殆ど荷物を持つこともなく、そして一番荷物を持つことになったのは愛ちゃんだった。途中、疲れを見せた愛ちゃんに三代吉が助け舟を出そうとはしたのだが、比呂美がそれをルール違反だと禁止してしまう。そんなこんなで旅館につくころにはもう愛ちゃんはふらふらになっていたのだった。

    (中編へつづく)
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

FC2Ad

Powered by FC2 Blog

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。